ガガーリン  ©2020 Haut et Court – France 3 CINÉMA

ガガーリン ©2020 Haut et Court – France 3 CINÉMA

2022.2.24

この1本:ガガーリン 廃虚で探る宇宙への夢

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)。

「憎しみ」(1995年)、「ディーパンの闘い」(2015年)、「レ・ミゼラブル」(19年)と、フランス映画に登場する郊外の集合住宅は社会的荒廃の象徴だった。しかし本作は団地が舞台でも、分断と対立ではなく融和と協調を描こうとする。少々甘口ながら、すさんだ時勢にこのメッセージ、胸にしみる。

ソ連の宇宙飛行士にあやかって名付けられたガガーリン団地。16歳のユーリ(アルセニ・バティリ)も彼の名前をもらい、宇宙飛行士を夢見ていた。しかし団地は老朽化が進み、パリオリンピックに向けて取り壊しが決まる。ユーリの母親は家を出たまま戻らない。解体工事が始まる中、行くあてのないユーリは一人団地にとどまることになった。

移民や貧しい人々が登場するのは他の団地映画と同様だ。都市と政治の都合で共同体が解散させられ、ユーリは周縁に取り残される。彼と仲良くなるロマの少女ディアナ(リナ・クードリ)も、やはり共同体の外に住む。それでもこの映画には、ギャングも銃も登場しない。ユーリは逆境にめげず素直な心を持ち続ける。リアリズムで荒廃を描くのではなく、ファンタジーの力を借りて希望の光を探る。

ユーリはガラクタを集め、廃虚の一室を宇宙船に艤装(ぎそう)し、ディアナや孤独な友人たちを導き入れてつかの間ユートピアめいた空間を作り出す。孤立し疎外されても、建物内を2人乗りのバイクで走り抜ける場面など、ささやかな幸福感すら画面を漂う。追い詰められたユーリが放つ救助信号は、世界に向けた連帯の呼びかけだ。団地映画の厳しい現実を見た目には、ご都合主義の甘いお話とも映る。それでもなお、確信に満ちた筆致で描かれる希望を信じたいのだ。ファニー・リアタール、ジェレミー・トルイユ共同監督。1時間38分。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪ステーションシティシネマほか。(勝)

ここに注目

古ぼけた団地の立て直しに駆け回るユーリは、母の不在による寂しさを漂わせながらも恋や青春の日々を楽しんでいる。それだけに、一人きりで団地を宇宙船に見立てて改造していく姿に狂気を感じた。そうすることでしか自分の居場所や自我を守ることができなかったのだとしたら切なく、悲しい。しかし、彼は宇宙への夢を忘れず、豊かな想像力を働かせ、信念を貫こうとする。その強さがただただ頼もしい。解体直前、ユーリの仕掛けによって明るい光に包まれた団地は美しく、彼の夢はかなったのだという幻想を抱かせてくれた。(倉)

技あり

パリ郊外の団地が舞台でも、青春映画の香りが強い。建築用クレーン上で小さな灯を持つディアナと、反射板に赤い豆電球のユーリがモールス信号で会話するところや、ディアナがユーリの住み家で、無数の穴を開けた板の向こうに光源を仕込んだ「星図」に照らされるカットなど、新しい趣向のデート場面がいい。ユーリが、車中で母親の新生活を知らされるカットは斬新だ。車の窓越しにユーリを捉え、彼の鼻先あたりをボケボケの郊外電車が通り、後頭部に暗い団地が反射で映る。若い監督と新進ビクター・シギーン撮影監督が撮った。(渡)

ファニー・リアタール、ジェレミー・トルイユ監督インタビュー