梅切らぬバカ ©2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト

梅切らぬバカ ©2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト

2021.11.18

梅切らぬバカ

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

自閉症の息子忠男(塚地武雅)を一人で育てる、占師の珠子(加賀まりこ)。忠男が中年にさしかかり、自分も年を取ってきた。忠男の自立を図ろうと、グループホームに入所させる。ある日ホームを抜け出した忠男は、近所の牧場から馬を連れ出して大騒ぎとなる。

映像産業振興機構が新人監督を育成する事業の一環として公募したオリジナル企画。きっぷが良くたくましい珠子と、純真な忠男の母子の情をしんみりと描きながら、障害のある人を取り巻く状況をきちんと取り込んでいる。

隣に越してきた一家の父親が忠男を不審者扱いする一方で、その息子は忠男と素直に親しくなっていく。忠男ら入所者を後押ししようと奮闘するグループホーム職員もいれば、迷惑施設として非難する近所の人たちがいる。迷惑はお互い様と認め合う寛容さが必要だと示唆しながら、安易な解決は示さない。地味ながら誠実、真摯(しんし)に作られた佳品。和島香太郎監督。1時間17分。東京・シネスイッチ銀座、大阪・シネ・リーブル梅田ほかで公開中。(勝)

ここに注目

小さな街の視点で見つめたことに好感が持てる。どの人の主張も理解できるように作られていて、ドラマとしての抑揚は控えめ。むしろ、どこにでもある光景を淡々と積み重ねることで、ギスギスとした感情を解きほぐし、静かに内面に迫る。ラストの梅の木の存在が最も雄弁だ。(鈴)