毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2022.3.03
選ばなかったみち
ニューヨーク。メキシコ人移民の作家、レオ(ハビエル・バルデム)は認知症を患っている。記者で娘のモリー(エル・ファニング)はアパートを訪れて通院を助けるが、父との意思疎通は難しく、トラブル続きの日が始まる。
サリー・ポッター監督は自身の弟が若年性認知症になった経験をもとに脚本を書き下ろした。物語は必死で父をサポートする娘の現実と、父の脳内の映像で、初恋の女性(サルマ・ハエック)と出会ったメキシコや、スランプに陥って訪れたギリシャでの日々を行き来しながら進んでいく。三つの物語は場所もタッチも異なるため、「ファーザー」のように現実と幻想の境界線が溶けてしまう恐ろしい感覚は希薄だ。監督はそれよりも、どんな道を選んでも後悔や自省からは逃れられない人間の側面に光を当てている。あまりにも献身的で愛情深い娘の姿に胸が痛んだが、ラストにはあるギミックがあり、視点を反転させられたような不思議な余韻も残る。1時間26分。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(細)
異論あり
同じものを見ているつもりでも、認知症患者は全く違う世界を見ているという描写に恐怖を感じた。ただ、認知症の父との関係を描いた「ファーザー」に比べ小粒な印象。レオとモリーに父と娘としての歴史が感じられず、レオがただ自分勝手に生きた人間にしか見えなかった。(倉)