毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.5.27
データで読解:積み重ねの向こうに
吉永小百合主演の新作「いのちの停車場」が1位でスタート。緊急事態宣言などで東京、大阪の一部の映画館が休業、他地域でも多くの映画館が営業縮小となる状況で、興行収入も1億4000万円を超え、興行の腰の強さ次第で最終10億円も見える。15~69歳の鑑賞意欲度調査によると、男女60代の意欲度が突出しており、コロナ禍の自粛で来場者が減少傾向にあったシニア層を中心としたヒットだ。
もう一つ明るいニュースとしては、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が興収400億円を突破した。本作は45カ国・地域で上映されており、全世界興収517億円、累計来場者数は4135万人と発表された。動画配信サービスでアニメのファン層が形成され、数々の国で記録を塗り替えるヒットとなった。コロナを吹き飛ばすような快進撃を、世界中で展開している。
一方で、市場環境の厳しさもうかがえる。コロナ禍で、年間1本以上映画を見る映画参加者人口の減少傾向に続き、1人当たりの鑑賞本数も減っているのだ。次のヒット作のベースは、今、映画やアニメを鑑賞している人たちだ。どんな形であれ映画に接することが映画産業への後押しとなる。ヒットの積み重ねの向こうに、皆が見たい映画を楽しめる日常が帰ってくる。(GEMPartners代表・梅津文)=毎月最終金曜掲載