新潟国際アニメーション映画祭の数土直志プログラム・ディレクター=鈴木隆撮影

新潟国際アニメーション映画祭の数土直志プログラム・ディレクター=鈴木隆撮影

2024.3.13

政治から人情へ CGから手描きへ ぬくもり求める潮流映す 第2回新潟国際アニメーション映画祭

公開映画情報を中心に、映画評、トピックスやキャンペーン、試写会情報などを紹介します。

鈴木隆

鈴木隆

「第2回新潟国際アニメーション映画祭」が3月15日に開幕、新潟市内7会場で上映やイベントが実施される。20日まで。世界中から集まった多彩な作品を上映し、アニメーションの可能性や多様性を体感できる映画祭。長編にフォーカスし、コンペティション部門には29カ国から49本がエントリーされ、ノミネートされた11カ国からの12本がグランプリを競う。同映画祭の数土直志・プログラム・ディレクターにコンペ作品の傾向や世界のアニメーションの潮流などを解説してもらった。


世界に浸透 コンペ応募作前回の2.5倍

昨年1回目のコンペの応募数は20作品、それが今回は49本に増えた。「長編コンペに12本ものノミネート作品が選ばれる映画祭は希少。この規模は他に、世界最大級といわれるアヌシー国際アニメーション映画祭だけではないか」。少し前までは、長編は募集してもどの映画祭でも集まらない時代があったという。「歴史あるアヌシーは昨年90本を超えるエントリーがあったようだが、数年前までは40、50本程度。50本レベルが集まる映画祭は極めてまれだ。一方で、長編を見せる場が少ないという製作者もいて、新潟が世界に浸透しつつあることが背景にある」と分析する。

日本作品は今回9本の応募があったという。国際映画祭は世界初披露作品を集めたがるが、特例措置を取った。「国内では公開ぎりぎりまで製作しているので、現実的には応募できない状況があった。このため、今回は日本作品のみプレミア条項を外した」。日本のアニメ製作者に条件を説明して応募を促した。その結果、日本作品の応募作品が増加した。

デジタル化と市場拡大で世界的に製作盛ん

ノミネート作品は日本から2本のほか、北米2本、南米2本、欧州5本、アジア1本とどの地域からもまんべんなく選ばれた。日本からは「クラユカバ」(塚原重義監督)と「アリスとテレスのまぼろし工場」(岡田麿里監督)。「今回は応募数、クオリティーともに南米の勢いが目立つ。世界中でアニメーションの製作が活発になりつつあるのがここ10年ぐらいの傾向だ。長編は製作費金がかかり技術的にも大変だが、デジタル化の進展とマーケットの拡大が後押ししている」と話す。

日本でも映画興行におけるアニメーションのシェアは年々高まっている。「アメリカでもヒット作は、ディズニーやピクサーのアニメ、スーパーヒーローものばかり。日本と同じようなことが起きていて、止めようがない状況だと思う。作家性のある作品はその隙間(すきま)に公開されている」と現状を説明する。

無視できない映画祭に

特に注目しているのはアジアの各国で、日本と中国の作品数が圧倒的に多いのが現状。「コンペにももう少し入れたかった。技術レベルは高いがストーリー的に弱いものが多かったのが残念。ただ、今後はインドやイラン、韓国や台湾、タイやマレーシアなどが、レベルも上がり製作本数も増えていくのは確実」と期待。数年先には「アジアの作り手がまず新潟に出したい、と思ってくれる映画祭。世界で無視できない映画祭にしていきたい」と将来を見据える。

応募作品のジャンルに変化の兆しはあるのだろうか。「コンピューターグラフィックス(CG)アニメが多いのはここ最近の傾向だが、選んでみると手描きやコマ撮りも目立った。世界的にもCGからの揺り戻しがあるとされ、手描きのぬくもりが求められていると感じた。世界的な風潮といっていいかもしれない。作り手はもちろんのこと、企画を立てる方の意識も変容しつつある」というのだ。

目指すはアヌシー

新潟はアートから商業映画まで幅広く長編を集めることを一つの軸にしているが、作品の質をどう見ているのか。そう聞くと表情が一気に明るくなった。「2回目で極めて水準の高い作品が集まり、急成長している。アヌシーに近づくのが当面の目標」と話す。

内容的にも違いが見られるという。「深刻なテーマの作品が少ない。ここ10年ほど世界の長編映画祭は政治やジェンダーといった重いテーマが目立っていた。その反動なのか、もう少し楽しいものも取り上げるべきだという流れも見える」というのである。政治や戦争など重い題材の作品は欧州に多く、アジアの作品は身近な物語を描く傾向だった。それが「今回の新潟でもちょっといい話といった作品が結構な本数ある。昨年より顕著に増えた。政治的な題材、ドキュメンタリーアニメといわれるような作品が増えすぎたこともあると思う」と推察する。

若手育成、高畑勲特集、トークショー……盛りだくさん

今回新たに「ワークインプログレス」として、製作中の作品も紹介。日本が舞台のフランス作品「小さなアメリ」、LGBTQがテーマの中国作品の素材を見せる機会を設ける。さらに、日本やアジアのアニメーションを学ぶ学生、若手作家約40人を招待する「新潟アニメーションキャンプ」を行い、マスタークラスやコンペ選出監督とのディスカッション、参加者間の交際交流を実施する若手育成プログラムも設置した。

「世界の潮流」では今を代表するアニメーション作品を国内外から集めて上映する。「新しい作り方」「女性監督」「コマ撮り」「アジア」「新潟」などのテーマに分けて、最新情報と方向性を探る。塚原重義、loundraw、岩井澤健治、堀貴秀らインディーズシーンから活躍の場を広げた監督がそろうのも見どころ。高畑勲のレトロスペクティブでは全長編アニメーション作品を上映し関係者のトークも交えて検証する。また、声優のトークショーやアニソンライブなどのイベントのほか、コスプレーヤーも集結する「にいがたアニメ・マンガフェスティバル」も同時開催するという。

映画祭期間中に約65本(うち長編45本程度)を上映し、ほとんどの上映にトークショーを行う予定だ。

第2回新潟国際アニメーション映画祭ホームページはこちら

ライター
鈴木隆

鈴木隆

すずき・たかし 元毎日新聞記者。1957年神奈川県生まれ。書店勤務、雑誌記者、経済紙記者を経て毎日新聞入社。千葉支局、中部本社経済部などの後、学芸部で映画を担当。著書に俳優、原田美枝子さんの聞き書き「俳優 原田美枝子ー映画に生きて生かされて」。

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  • 第2回新潟国際アニメーション映画祭のポスター
  • 第2回新潟国際アニメーション映画祭長編コンペティション部門の日本映画「アリスとテレスのまぼろし工場」
  • 第2回新潟国際アニメーション映画祭長編コンペティション部門の日本映画「クラユカバ」
  • 第2回新潟国際アニメーション映画祭長編コンペ ティションの審査委員長でアイルランドのアニメ監督、ノラ・トゥーミー
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