「ザ・ファーム/法律事務所」TM&©1993 BY PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.TM, ®&©2011 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

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2023.3.01

若きトム・クルーズが法律の裏側で知る巨悪 「ザ・ファーム/法律事務所」:謎とスリルのアンソロジー

ハラハラドキドキ、謎とスリルで魅惑するミステリー&サスペンス映画の世界。古今東西の名作の収集家、映画ライターの高橋諭治がキーワードから探ります。

高橋諭治

高橋諭治

リーガルサスペンスとは、ある重大事件に関わった弁護士や検事を主人公にして、法廷の内外で繰り広げられる人間模様を描くスリラー映画のことだ。「トップガン」の海軍パイロット、「ミッション:インポッシブル」シリーズのスーパースパイをはじめ、約40年のキャリアで多彩なキャラクターをこなしてきたトム・クルーズは、1990年代前半に2本のリーガルサスペンスに出演している。ひとつはアーロン・ソーキンの戯曲に基づき、海軍の法務官を演じた「ア・フュー・グッドメン」(92年)。そしてもうひとつは今回紹介する「ザ・ファーム/法律事務所」(93年)だ。
 

キーワード「すべての敵を出し抜け!」

主人公はハーバード大学をトップクラスの成績で卒業し、全米各地の大手法律事務所から引く手あまたのミッチ・マクディーア(クルーズ)。幼稚園勤めの妻アビー(ジーン・トリプルホーン)とのバラ色の未来を思い描くミッチが最終的に選んだのは、ニューヨークでもシカゴでもなく、テネシー州メンフィスの法律事務所だった。他の事務所をはるかにしのぐ破格の雇用条件に目がくらんだからだ。アビーとともに新天地メンフィスに引っ越したミッチは、上司エイバリー(ジーン・ハックマン)のもとで激務をこなしていくが、同僚の弁護士2人が事故死したことに疑念を抱き、事務所に隠された恐ろしい真実を知ることに……。
 

ベストセラー作家、ジョン・グリシャム原作

ハリウッドにはリーガルサスペンスがコンスタントに作られてきた歴史があり、「情婦」(57年)、「十二人の怒れる男」(57年)、「評決」(82年)などの名作、秀作がいくつも思い浮かぶ。とりわけ90年代半ばから2000年代の初頭にかけては、ちょっとしたブームになった。その火付け役はジョン・グリシャムだ。
 
刑事事件の弁護士として10年間活動した経験を生かし、89年に「評決のとき」で作家デビューしたグリシャムは、その後毎年のようにベストセラーを世に送り出した。このリーガルサスペンスの旗手をハリウッドが放っておくはずがなく、「ペリカン文書」(93年)、「依頼人」(94年)、「レインメーカー」(97年)などが矢継ぎ早に作られた。処女作「評決のとき」は当初の売れ行きが不調だったため、2作目の「ザ・ファーム~」はグリシャムの出世作であり、初めて映画化された作品である。
 

法廷場面が登場しない異例作

リーガルサスペンスとしてはいささか異例なことに、本作には法廷シーンがまったくない。主人公ミッチが就職したメンフィスの法律事務所は税務が専門で、企業や実業家の税金対策という地味な案件を請け負っている。しかしオフィスの内装は豪華絢爛(けんらん)で、精鋭弁護士40人を従える上層部はやたら〝家族的な絆〟を強調し、羽振りもよさそうだ。誰もが容易に想像がつくように、上層部の連中はある違法行為に手を染めているのだが、法律事務所を秘密結社やマフィアのような悪の巣窟として描いている点も珍しい。
 
そうとは気づかず妻とのリッチな新生活をスタートさせたミッチは、深夜のダイナーで連邦捜査局(FBI)捜査官(エド・ハリス)の接触を受け、出張先のケイマン諸島ではハニートラップに引っかかる。さらにミッチの行く手には、場末のビルに事務所を構えるアウトローな私立探偵(ゲイリー・ビジー)とド派手な容姿の助手(ホリー・ハンター)、刑務所に収監中の兄(デビッド・ストラザーン)らのひと癖もふた癖もある怪しいキャラクターが現れる。
 
エリート大卒のミッチは社会の秩序を保つための法律の知識は抜群だが、社会にはそれが通用しない〝裏〟の世界がある。撮影時30歳で世間知らずの未熟な青年役が似合ったトム・クルーズが、巨悪にからめ捕られて抜け出せなくなっていくミッチの焦燥、妻への背信を犯した苦悩をはまり役で演じている。
 

ミッチが動き、映画も走り出す

ミッチがこの危機を脱するには、事務所の悪行を裏付ける証拠をかき集め、FBIの保護を求めるしかない。しかし、ある切迫した事情によってそれを拒絶したミッチは別の手段を選択する。それはFBIも、事務所も、その背後に潜む犯罪組織も、みんなまとめて〝出し抜く〟という極めてハードルの高い道だ。
 
するとデイブ・グルーシンの軽やかなピアノ音楽に乗って、ミッチのみならず演技巧者をずらりと配した上記の脇役キャラクターが一斉に動き出す。登場人物たちの思惑、駆け引きがハイテンポで絡み合う終盤は、それまでの閉塞(へいそく)した緊張感が吹き飛び、爽快なスリルとユーモアがあふれ出す。前半では悪の権化のように描かれていたジーン・ハックマンが突然いい人に変わるなど、突っ込みどころはあるものの、それに目をつむれば上々の出来栄えだ。
 
トム・クルーズは30年前に作られた本作を最後に、リーガルサスペンスには出演していない。60歳を過ぎた今も現役ばりばりのアクションスターだが、いずれ法廷で熱弁をふるうスーパースターの姿を見てみたいものだ。
 

「ザ・ファーム/法律事務所」はNBCユニバーサル・エンターテイメントからブルーレイ発売中。2619円。

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ライター
高橋諭治

高橋諭治

たかはし・ゆじ 純真な少年時代に恐怖映画を見すぎて、人生を踏み外した映画ライター。毎日新聞「シネマの週末」、映画.com、劇場パンフレットなどに寄稿しながら、世界中の謎めいた映画、恐ろしい映画と日々格闘している。
 

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