ドーナツキング© 2020- TDK Documentary, LLC. All Rights Reserved.

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2021.11.11

ドーナツキング

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

カリフォルニア州のドーナツ店の9割以上は、カンボジア系アメリカ人の経営だという。その礎を築いたのが、1975年に難民としてアメリカに渡ったテッド・ノイ。初めて食べたドーナツに魅了された彼は、やがて自身の店を持つようになる。家族と共に寝る間も惜しんで働き、巨万の富を手にするが、その先には波乱の人生が待っていた。

ドーナツを入れるピンクの箱の誕生秘話や家族経営の喜びと苦労、大手チェーン店との攻防も描かれ、ビジネスの裏側を描いたドキュメンタリーとしての面白さは十分。アメリカンドリームを成し遂げ、同胞の難民たちに手を差し伸べた聖人のようなノイの影の部分も描かれている。人間の愚かさと弱さにあぜんとさせられたが、劇的な人間ドラマとしての見応えもある。SNSで宣伝にいそしむ2世たちの奮闘ぶりにも光が当てられ、現在のドーナツ業界事情が垣間見られるのも楽しい。リドリー・スコットが製作総指揮。アリス・グー監督。1時間39分。東京・新宿武蔵野館、大阪・シネ・リーブル梅田(19日から)ほか。(細)

ここに注目

大虐殺から逃れ、ひたすら働いて成功した英雄と、彼に救われた多くの人たちのエピソードに泣かされるものの、それだけでは終わらない。ノイの妻とのなれ初めや、成功後の人生には思わず笑ってしまう。たくましいのに弱くて、愚かだけど優しい。人間って複雑だ。(久)