出版社が映画化したい!と妄想している原作本を担当者が紹介。近い将来、この作品が映画化されるかも。
皆様ぜひとも映画好きの先買い読書をお楽しみください。
2023.5.24
タワマンを通して見る「今の東京」外山薫「息が詰まるようなこの場所で」
みなさんはタワーマンション(以下、タワマン)という言葉を聞いて、何を思い浮かべますか?
成功者やエリートサラリーマンか、はたまた東京のギラギラした夜景か――。
「息が詰まるようなこの場所で」は、タワマンの低層階と高層階に住む家族にフォーカスを当て、東京で生きるということの息苦しさや葛藤を等身大で描いた群像劇です。タワマンに住む人々は何を思い、暮らしているのか。本書を読むことで、彼らのリアルな日常を垣間見ることができます。
コンプレックスを抱いたさやか
第一章の主人公は大手銀行の一般職として働く平田さやか(42歳)。社内結婚した総合職の夫を持ち、PTAで会計係を押し付けられたり、息子の中学受験に頭を悩ませたりする、ごくごく普通の女性です。さやかは「タワマンに住んでいる」というステータスを誇りに思いつつも、最上階に住む資産家一家の高杉家にたびたびマウントされていると感じ、コンプレックスを抱いています。同じタワマンでも、低層階60平米2LDKと最上階の広々としたペントハウスとでは、価格が倍以上違うのです。高杉家に招待されるだけで、さやかは自分たちの狭い部屋と比較し、格差を感じて劣等感に苛(さいな)まれます。
夫の健太が辟易(へきえき)
さらに物語は「中学受験」を軸に進んでいきます。さやかは中学受験のために家計を切り詰めながらも数百万円をかけて大手塾に息子を通わせたり、朝5時半に起きて息子の勉強を見たりと、どんどん教育ママぶりが加速します。第二章では夫の健太がそんなさやかに辟易(へきえき)したり、中学受験そのものに疑念を抱いたりしつつも、日々理不尽な仕事に向き合いながら懸命に働く姿が描かれます。
幸せってなんだろう
そして何もかも持っているように見える高杉家にも、実はそれぞれに悩みや苦しみがあって――。読み終わる頃には、東京なんて、タワマンなんて自分には関係ない、縁遠い存在だ――そう思っていた人でも、心地よい読後感とともに「これは自分の話かもしれない」「幸せってなんだろう」と自分の人生に思いを馳(は)せることでしょう。
今の東京
時代とともに人々が憧れる住宅形態は変わっていきます。かつては郊外のニュータウンがそうだったように、今では都心や都心からアクセスの良いマンションが「憧れ」の対象となっています。「息が詰まるようなこの場所で」には、「今だからこそ書ける」「今の東京のアッパーミドル層の生活」が克明に切り取られています。そしてそんな「今の東京」を、映像でも見てみたくないですか? 私は心の底から見たいです!
ぜひ、映像化したときのキャストを思い浮かべながら読んでみてください!