ベネチア国際映画祭渡欧前に抱負を語る大宮エリーさん

ベネチア国際映画祭渡欧前に抱負を語る大宮エリーさん

2023.8.30

大宮エリーが初めて手掛けた体験型VR映画「周波数」が、第80回ベネチア国際映画祭XR部門「Venice Immersive」にノミネート

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及川静

及川静

画家、映画監督、映像ディレクター、演出家、脚本家、作家、ラジオパーソナリティーなどボーダーレスに表現活動を行う大宮エリーさんが、VR映画に初挑戦した。タイトルは「周波数」。まるで絵本の世界に迷い込んだような感覚になる作品で、そこは大宮さんならでは。その初挑戦作が、第80回ベネチア国際映画祭XR部門「Venice Immersive」にノミネートされた。本作品は現地時間の8月30日(火)から9月9日(土)までラッザレット・ベッキオ島にて展示され、最終日に受賞作品が発表される。今回はレッドカーペットに向かう直前の大宮さんに、作品について話を伺った。


マルチアーティストである大宮エリーさん、初のVR映画

「周波数」は、なんとも不思議な作品だ。VR映画でありながら、表現される世界は3Dではなく、2D。大宮さんの絵が眼前に広がり、時にはそこにいる人物に話しかけられたり、次なる場所に誘われたりする。そうして、主人公のアンと共に物語を体感していくのだ。今作は、エクステンデッドリアリティー=XR作品を専門とする株式会社CinemaLeapからの声かけによって誕生したが、大宮さんは2021年にVRだけの国際映画祭「Beyond the Frame Festival」の審査員となり、世界中のVR作品を見ていたため、どんなものであるかの知識はあった。その上で大宮さんは、何をどのように表現したいかを思案していったという。

 
「ディズニーランドにあるイッツ・ア・スモール・ワールドのように、物語の世界を旅してもらえる作品にしたいと思いました。そのため、シーンを一つずつ紙の模型で作って、それをエンジニアの方に見せて、主人公の動きなどを説明していきました。そうしないと頭の中にある世界や距離感がわからないじゃないですか? だから、演劇の舞台のような、展覧会のような、いろんな要素のあるVR映画になっているかもしれません。実はCinemaLeapさんは、私がパルコでやった舞台装置と言葉で構成した体験型の展覧会『思いを伝えるということ展』を見てくださっていたんです。どんな展覧会かというと、例えば、〝人生にはなかなか開かないドアが必ず立ちはだかるが、それを開けるための鍵を人間は子供のうちに見つけている。大人になると鍵のありかがわからなくなるだけで、きっとドアをあける鍵を持っているよ!〟という内容の詩と巨大な扉が三つあって、来場者の方はそこで鍵を探して、開けていくんです。それをCinemaLeapさんが体験されてVRでそういうものを作らないか?という話だったんですけど、それとは異なる全編絵で構成された作品になったので、もしかしたら、アレ?と思ってらっしゃるかもしれないです(笑)」
 

分断や対立から生じた閉塞(へいそく)感から解放したい

「周波数」のストーリーには、大宮さんの幼少期に経験したいじめの記憶が盛り込まれている。なぜ、そうしたのか。それにはコロナの影響による精神的分断と、ロシアのウクライナ侵攻による戦争の勃発が関係している。

「ロシアとウクライナの戦争が大変ショックだったのですが、去年ロンドンで個展をした際に、帰りの飛行機が危険な状況なのでロシア上空を迂回(うかい)しようということになったんです。間接的にではありますが、そのような形で戦争を体験して、さらにショックが深まりました。それともう一つが、コロナです。コロナ禍以降、若い層の方はコロナに罹患(りかん)して亡くなる人よりも自殺者の方が多いと聞いて、精神的に相当分断されているのだなと感じていました。それで何かできないのかなと思っていたところにVR映画のお話をいただいたので、過去に自分がいじめられた時に自分を支えてくれた二つのテーマを用いて、作品を作ろうと思ったんです」

 

大宮さんを支えたパスカルの言葉と物理の定理がテーマの軸に

一つはパスカルの「人間は考える葦(あし)である」という言葉。そして、もう一つは「全ての物に固有の周波数がある」という物理の定理を用いて、一人一人の存在意義と人種や文化の違い=多様性の素晴らしさを表現した。

「すべての存在に周波数があり、それは一つ一つオリジナルです。桜も、河原の石も、ひとつひとつの形が違いますよね。自然でも人間でも違うから美しい。このことを誰もが認知すれば、『私なんていなくていい』と感じている人にも光が当たるかもしれないし、民族対立する必要もなくなるのではないかと思ったのです。VR映画のお話をいただいてからストーリーを考え始め、実際に脚本を書き始めたのは今年の1月。そこから絵も一気に描き下ろしました」

 
劇中ではカフェの椅子や海の中のサンゴなどが、それぞれの周波数に合わせて動き出し、そのうちに自分もその中の一つであることがわかってくるのだが、これらの表現がなんともユニークなのだ。

〝違うこと〟が〝美しい〟ことを全面で表現

「映像内の絵の動きは全てモーションキャプチャーで録(と)っていて、人物や、花、草、机などあらゆるものはパントマイムのパフォーマーさんが稽古(けいこ)をし、演技しています。周波数をビジュアルで感じてもらうために。一つの演劇ですね。しかし、サンゴの動きだけは一般の方がしているんです。例えば、子供や花屋さん、バーのマスター、整体師さん、中学生など、年齢層も職業もバラバラ。周波数はそれぞれ異なるので、いろんな方にやってもらったんです。ですので、特に海のシーンは、多様性に満ちた空間になっています。最近、多様性ってよく言いますけど、その言葉が伝えられることに、果たして、実感が伴うのかどうか、限界がある気がして。〝違うこと〟が〝美しい〟。自然もそうですよね。一本一本草木は違うし、桜の花びらも一つ一つが違うから美しい。そういうことも伝わったらいいなと思って作ったので、何か感じ取ってもらったらうれしいですね。また、サンゴの海のシーンの音は、波動療法で使用する音叉(おんさ)をいくつも使用していて、一つ一つのサンゴから放たれる音はヘルツが異なります。今度は耳で周波数を感じ取ってもらえればと思ったのですが、本作を見れば音叉効果で癒やされる仕組みにもなりなした」

 
多様性が表現されている「周波数」は、ベネチア国際映画祭 エクステンデッドリアリティ(XR)部門「Venice Immersive」にノミネートされたことで、まずはヨーロッパの方の目に触れることになる。

 

地続きの欧州の方が周波数の違いをどう受け取るか、聞きたい

「自分の中の多様性を表現しましたが、いろんな生い立ちや社会背景などのバックグラウンドを持つ方が見ることで、どんな感想を持たれるかが気になります。ヨーロッパは地続きで民族紛争も多かった土地なので、周波数の違いについてどう感じるか伺えたらいいなと思っています」

VR映画という特性上、大きなスクリーンがなくとも機材さえあれば、どんな場所でも見ることができる。そのため、映画祭後はギャラリーなどでの展示が予定されているが、さまざまな年代の方や職業の方に見てほしいと大宮さん。

「子供だけでなく、生きづらさを感じている学生さんや孤独を感じている会社員の方などに見てもらえたら、ちょっと元気になってもらえるのではないかな?と思っているので、学校や企業の方などにも注目してもらえたらうれしいです」

ライター
及川静

及川静

おいかわ・しずか 北海道生まれ、神奈川県育ち。
エンターテインメント系ライター
編集プロダクションを経て、1998年よりフリーの編集ライターに。雑誌「ザテレビジョン」(KADOKAWA)、「日経エンタテインメント!海外ドラマ スペシャル」(日経BP)などで執筆。WEBザテレビジョン「連載:坂東龍汰の推しごとパパラッチ」、Walkerplus「♡さゆりの超節約ごはん」を担当中。

カメラマン
田辺麻衣子

田辺麻衣子

たなべ・まいこ 2001年九州産業大学芸術学部写真学科卒業後スタジオカメラマンとして勤務。04年に独立し、06年猫のいるフォトサロンPINK BUTTERFLYを立ち上げる。企業、個人などさまざまな撮影を行いながら縁をつなぐことをモットーに活動中。

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