「コンペティション」 ©2021 Mediaproduccion S.L.U, Prom TV S.A.U.

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2023.3.17

この1本:「コンペティション」 暴走する表現者の本性

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

よくできたブラックコメディーには、チクチクするような刺激がある。俗物根性の染みついた主人公、皮肉で意地悪な人間観察。笑っているうちに自分に返ってくるシニシズムの矢。ラテン圏の名優3人を配し、毒気たっぷりに映画製作の舞台裏を描く。

製薬業界の頂点に立つ嫌われ者の大富豪が、自分の名前を残すために映画製作に乗り出した。ノーベル文学賞作家の小説の映画化権を買い、メディア嫌いの俊英ローラ(ペネロペ・クルス)を監督に据えた。ローラは主人公2人に大物俳優のイバン(オスカル・マルティネス)とフェリックス(アントニオ・バンデラス)を起用する。ストイックな演技派のイバンと大スターで自己顕示欲の塊のフェリックス、演技に対する考え方や役作り、生き方まで正反対。2人はことごとく対立する。

ローラが用意する奇抜なリハーサルが、みどころの一つ。〝5㌧〟の岩をつり下げてその下で演技させる。2人をラップで巻いて身動きできないようにして、目の前で大切な物を破壊する。プライドの高い2人が、ビビったり怒ったりしながら意地を張り合う姿が笑いとなる。

しかし、俳優が俳優を演じるメタ構造を達者な3人が支えているから、ドタバタ喜劇にとどまらない。合間にチラリと語られる演技論はそれらしく、2人は映画の成功を追求するプロ根性も持ち合わせている。一見対極のイバンとフェリックスが、本質は同じナルシシストと描くのも、表現者のさがをチクリと刺す。

映画への情熱といがみ合いの緊迫感が高まって、クランクイン前のパーティーを迎える。映画が無事に完成できるのかは、見てのお楽しみ。アルゼンチンのガストン・ドゥプラットとマリアノ・コーンの共同監督。2人は「ル・コルビュジエの家」「笑う故郷」などが日本でも公開されている。1時間54分。東京・新宿シネマカリテ、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(勝)

ここに注目

最高の映画を完成させるためなら、何をしてもいいのだろうか。そんな問いが全体にちりばめられている。ウオーミングアップと称して俳優にののしり合いをさせるなど、とんでもない要求をして役者を追い込むローラ。極端な例かもしれないが、「実際にいるだろう」と思わせる現実味がある。水と油のフェリックスとイバンの共演も、思いも寄らない化学反応を狙ったあざといキャスティングをあざわらっているようだ。こういった皮肉は、大作だけをありがたがり、大きな賞の受賞作にしか注目しない観客にも向けられている気がした。(倉)

技あり

アルナウ・バイス・コロメル撮影監督が広角レンズで屋内を広く見せ、明るい照明で撮った。イバンとフェリックスがローラと会う、モダンで大きい建物。がらんとした室内、背景は上方が障子風。日本なら明暗を考えるが、透過光で明るく、下は青い大理石調。時々飾り替えて、物語の中で効率よく使われた。リハーサルは9回もあり、俳優たちは痛い目に遭う。クレーンでつられた大岩の下での読み合わせは恐怖感いっぱい。ローラは「物語の重みを感じさせるため」と説明するが、ほとんどイジメ。明るいラテン調で奇麗に仕上げた。(渡)