哀愁しんでれら ©️2021 『哀愁しんでれら』製作委員会

哀愁しんでれら ©️2021 『哀愁しんでれら』製作委員会

2021.2.04

哀愁しんでれら

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

児童相談所に勤める小春(土屋太鳳)は子供の頃に母が家を出たという悲しい過去を抱えているが、祖父と父(石橋凌)、妹(山田杏奈)とともにつましいながらも穏やかに暮らしている。しかし祖父が倒れた夜に自宅が火事になり、父は飲酒運転で失業、おまけに彼氏の浮気が発覚と一気に不幸の数珠つなぎに。そんな中、8歳の娘ヒカリ(COCO)を育てる医師の大悟(田中圭)と出会い、いきなり結婚することになるが……。

シンデレラストーリーのその先の悪夢を、コメディー、人間ドラマ、サスペンスとジャンルを転調させながら描いたのは、本作が商業映画デビューとなる渡部亮平。幸せへの渇望と愛ゆえに常軌を逸していく家族を、他人事(ひとごと)として突き放せるのか。常に彼女たちとともに綱渡りをしながら、見る側の価値観やモラルを試されるような感覚に陥った。脳内の出来事であってほしいと願ってしまったエンディングも含め、緻密な脚本に支えられた野心作であることは間違いない。1時間55分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・梅田ブルク7ほか。(細)

ここに注目

コメディータッチで始まる冒頭から一転、小春が「あれ?」と感じてからは、不穏さと緊迫感が画面全体に漂う。ゆがんだ正義感を振りかざす田中の演技も見ものだが、天使と悪魔の無邪気さを併せ持つ娘役のCOCOが圧巻。小春の失敗をあざけるシーンは一見の価値あり。(智)