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「真心を込めて招待します」© 2023 Amazon Content Services LLC
2025.2.10
ウエディングコメディーはお好き?! ラブコメファンは見逃し厳禁な「真心を込めて招待します」
自問自答で恐縮ながら、筆者はウエディングコメディーが大好きだ(現実の結婚式は苦手)。結婚というハレの極みともいえるイベントを〝装置〟とすることで、普段は交わらない人たちが交錯し、新郎新婦やその関係者たちが曖昧にしていた本音や人間模様が際立たされる。
もっとも重要な鍵は、何よりも最優先される〝スケジュール〟の存在だ。この〝時間〟による縛りとコメディーというジャンルの相性が最高なのだ。結婚式前夜に消えた花ムコを、結婚式までに探さなければいけない悪友たちのドタバタを描く「ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」が好例といっていいだろう。
Amazon プライムビデオで1月30日から配信されている「真心を込めて招待します」も、結婚式のスケジュールに振り回される二つの家族を描くコメディー作品だ。騒動の発端を、会場側で起きた〝ありえない悲劇〟によるダブルブッキングとするあたり、本作はとびきり「純度の高い」(「ベタな」とも言い換え可能)ウエディングコメディーである。
コメディー界のビッグネーム、ウィル・フェレルとリース・ウィザースプーンが共演
週末に1組しか予約できない結婚式場のある、小さな島。6月1日の結婚式のために、花嫁Aの父・ジム(ウィル・フェレル)が率いるグループと、花嫁Bの姉・マーゴ(リース・ウィザースプーン)が率いるグループが、ほぼ同時に船で到着する。両家に面識はなく、まもなくダブルブッキングが判明し、ジムとマーゴの戦いのゴングが鳴り響く。コメディー俳優として揺るぎない地位を築いているフェレルとウィザースプーンの丁々発止のやりとりは、拳法の達人同士の手合わせのように気持ちいい。
2人は話し合いの末、会場をシェアする契約を交わす。リハーサルディナーは場所を「外」と「室内」に振り分けて同時刻に行い、船着き場での挙式は前半と後半で時間制にし、その後の披露宴はリハーサルディナーと逆の場所で行う段取りだ。ホテルもシェア。
騒動が起きない方が難しい、コメディー(カオス)のお膳立てとして万全な脚本を手掛けたのは、監督も務めたニコラス・ストーラーだ。「寝取られ男のラブ♂バカンス」(08年)や「ネイバーズ」(14年)など、〝男子〟目線のコメディーを得意とする監督だったが、男性軸(ジム)と女性軸(マーゴ)をほぼ均等に描いた本作は、非常にフェアな作品に仕上がっている。リース・ウィザースプーンがプロデューサーを兼任したことがプラスに働いたと推測できる。
ジムは、愛する妻を亡くして以来、一人娘・ジェニー(ジェラルディン・ビスワナサン)をシングルファーザーとして溺愛してきた。娘が結婚することへの寂しさで理性を失うシングルファーザーの言動で、フェレルが笑いと混乱を生み出していく。
ロサンゼルスでリアリティーショーのプロデューサーを務めるマーゴは、幼い頃から母親のフローラと折り合いが悪く疎遠になっていた。アトランタ南部の裕福な白人一家を取り仕切るフローラには、人種差別的かつジェンダー論的にも前時代的な価値観が染み付いている。今回の花嫁である次女のネーヴ(メレディス・ハグナー)がストリッパーのディクソン(ジミー・タトゥロ)と結婚することも、もちろんフローラは祝福していない。マーゴは妹のために、この結婚式をなんとしてでも成功させなければならないのだ。
ジムから娘への愛と、マーゴから妹への愛。この二つの強い愛が本作をコメディーとして走らせる両輪となりつつ、ヒューマン作品としての2本柱にもなっている。
社会問題へのメッセージも忍ばせた優れたコメディー
優れたコメディー作品の多くは、社会問題に対するメッセージを笑いに包んで忍ばせる。その一例である本作では、結婚式のダブルブッキングにより社会階層の違う二つの集団が相まみえることが重要だった。裕福な高齢白人だらけのマーゴのグループが、若者が多く文化&人種的に多様なジムのグループと同じ時間を共有することにより、自己欺瞞(ぎまん)に気づき、変化していく様子が描かれる。
また、ジムの言葉選びを娘たちが糾弾するくだりもいい。ジムがマーゴを「that lady(あのご婦人)」と表現すると、ジェニーたちが「性差別的だ!」と激怒する。娘に嫌われたくないジムが絞り出した「that female person(あの女性)」というワードの堅苦しさで笑いをつくりつつ、劇中の人々も見ている我々も「名前で呼ぼうよ」という結論に鮮やかに導いていく。
ウエディングムービーに欠かせない歌やダンスのシーンはすべて、物語において必然性のある選曲とタイミングになっている。フェレルやウィザースプーンの美声をはじめ、セクシーな牧師役でカメオ出演したスーパースターの自己陶酔した歌唱場面も爆笑必至。ジム側はカジュアルでにぎやか、マーゴ側はリッチでクラシカルと、結婚式のスタイルや雰囲気の違いも楽しい本作は、1本で通常のウエディングコメディー2本分の満足感を味わえる。ウエディングコメディー好きは絶対に! 見逃し厳禁だ。
「真心を込めて招待します」はAmazonプライムビデオで独占配信中。