「ツイスターズ」

「ツイスターズ」 © 2024 UNIVERSAL STUDIOS,WARNER BROS.ENT.& AMBLIN ENTERTAINMENT,INC.

2024.8.14

「ツイスターズ」と「ツイスター」 〝陽性〟ディザスタームービーの系譜と進化

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

高橋諭治

高橋諭治

公開中の竜巻パニック映画「ツイスターズ」(2024年)は、もともとヤン・デ・ボン監督の大ヒット作「ツイスター」(1996年)の続編として立ち上げられた企画だ。提案者は「トップガン マーヴェリック」(22年)のジョセフ・コシンスキー。当初はコシンスキーが監督を務める前提で製作サイドとの交渉が行われていたが、さまざまな検討を経て続編でもリメークでもない独立したストーリーの新作として完成した。


危険に飛び込む無鉄砲さ

周知の通り、ハリウッドは70年代のパニック映画ブーム以降、ありとあらゆるシチュエーションの災害を映画化してきたが、「ツイスター」は火災、地震、火山噴火、津波などを題材にした他のディザスタームービーとは明らかに異質な作品だった。多くの災害ものは登場人物たちが逃げまどったり、閉所からの脱出を試みたりするようなプロットを定型にしているが、「ツイスター」の主人公である男女はストームチェイサー、すなわち危険極まりない竜巻を自らの意思で追跡し、可能な限り接近を図るという無鉄砲なキャラクターだった。

「ツイスター」は公開当時、竜巻のスペクタクルシーンが大きな反響を呼び、米アカデミー賞視覚効果賞にもノミネートされた。しかし本作の魅力はそれだけにとどまらない。竜巻を大空の暗雲から現れる〝怪物〟に見立て、主人公たちの車がオクラホマ州の広大な農村地帯を猛スピードで疾走するチェイスシーンが、アクション映画としての原初的なスリルを呼び起こした。

ヤン・デ・ボンが貢献 アクション映画隆盛期

そもそも90年代はアクション映画の隆盛期だった。その嚆矢(こうし)となったのは、ご存じブルース・ウィリス主演の「ダイ・ハード」(88年)。たったひとりでテロリスト集団に立ち向かうはめになった刑事ジョン・マクレーンが、おのれの不運をボヤきながら奮闘する泥臭いヒーロー像は、アクションジャンルの新たな地平を切り開き、キアヌ・リーブス主演の「スピード」(94年)などに連なる系譜が生まれた。オランダからハリウッドに渡ったヤン・デ・ボンは「ダイ・ハード」の撮影監督を務め、「スピード」で華々しく監督デビュー。「ツイスター」はそれに続く監督第2作だった。

ディザスタームービーとしては異例の〝陽性〟の冒険活劇となった「ツイスター」は、実はスクリューボールコメディーでもあった。脚本を執筆したマイケル・クライトンはハワード・ホークス監督の「ヒズ・ガール・フライデー」(40年)を参考にしたそうで、劇中には離婚協議中の主人公ジョー(ヘレン・ハント)とビル(ビル・パクストン)の夫婦ゲンカが随所に盛り込まれている。

そのため当時、ドラマパートに関しては「緊張感をそいでいる」「ノリが軽すぎる」といった酷評も飛び交ったが、筆者は嫌いではない。むしろ主人公たちが犬も食わない口ゲンカを交わしながら竜巻に突っ込んでいく描写には妙な臨場感がみなぎっているし、夫婦の常軌を逸した〝竜巻狂〟ぶりや彼らを支える追跡チームのオタクっぽい風情が楽しい。無名時代のフィリップ・シーモア・ホフマンが、チームの一員をハイテンションで演じているのも要チェックだ。


オリジナルの面白ささらに追求

「ツイスター」から28年の時を経て新たにお目見えした「ツイスターズ」は、前作に続いてスティーブン・スピルバーグが製作総指揮に名を連ね、「ミナリ」(20年)のリー・アイザック・チョンがメガホンを執った超大作だ。主人公は竜巻の追跡中に仲間を亡くしたトラウマを持つ若き気象学者のケイト(デイジー・エドガー=ジョーンズ)。そんな彼女が旧友に誘われ、故郷オクラホマで頻発する竜巻の調査に参加するという物語だ。

〝バズる〟動画を狙って竜巻チェイスに参戦する人気ユーチューバー、タイラー(グレン・パウエル)のキャラクター設定など、いくつかの現代的アップデートは施されているものの、本質的な面白さはオリジナルの「ツイスター」と何ら変わらない。むろん多様な竜巻が猛威をふるう様を映像化した視覚効果のクオリティーと迫力は「ツイスター」をはるかに凌駕(りょうが)しているし、前作から受け継がれた要素も見どころを提供する。


オマージュも随所に

〝竜巻街道〟と呼ばれるほど竜巻が多発するオクラホマ州で大々的なロケ撮影を敢行し、アメリカの雄大な原風景を余すところなく活写。二つの追跡チームが競い合うように竜巻を追うカーアクションも気合十分の仕上がりだ。さらに、前作では竜巻映画の古典「オズの魔法使」(39年)の主人公ドロシーにオマージュをささげた竜巻分析機器が活躍したが、今回はドロシーの旅の道連れである3人組(ライオン、カカシ、ブリキ男)から命名された新たな分析機器が登場する。また、前作の中盤には「シャイニング」を上映中のドライブインシアターが巨大竜巻の直撃を受けるスペクタクル描写があったが、今回はクライマックスの舞台が映画館に設定された。そこで上映されているホラー映画は、誰もが知るユニバーサルの某モンスタームービーなのだ。

加えて「ツイスターズ」の新たな魅力は、主演のデイジー・エドガー=ジョーンズとグレン・パウエルだろう。アドベンチャー活劇で危険な運命を共にする男女は恋に落ちるのが王道パターンだが、ライバル同士の駆け引きを繰り広げながら、ほどよくロマンティシズムも漂わせる2人のケミストリーが素晴らしい。ちなみにエドガー=ジョーンズが着用するメインの衣装はタンクトップだ。これまた前作でヘレン・ハントが演じた主人公へのオマージュに違いない。

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ライター
高橋諭治

高橋諭治

たかはし・ゆじ 純真な少年時代に恐怖映画を見すぎて、人生を踏み外した映画ライター。毎日新聞「シネマの週末」、映画.com、劇場パンフレットなどに寄稿しながら、世界中の謎めいた映画、恐ろしい映画と日々格闘している。
 

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