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「エレクトリック・ステイト」より© 2024 Netflix, Inc.
2025.3.24
「スター・ウォーズ」の影響を感じる、アナログ感あるロボットたちが大活躍するアドベンチャー映画 「エレクトリック・ステイト」
批評家から大酷評の「エレクトリック・ステイト」を見た。
「キャプテン・アメリカ」「アベンジャーズ/エンドゲーム」「グレイマン」などの監督作が軒並みヒットしたルッソ兄弟。2026年には「アベンジャーズ ドゥームズデイ」が、27年には「アベンジャーズ シークレットウォーズ」の公開がアナウンスされている。そんな彼らの最新作「エレクトリック・ステイト」(Netflixで3月14日から世界同時配信中)も大ヒット間違いなし……と言いたいところだが、3月17日現在、ロッテントマトでは肯定的な批評家レビューがわずか14%と、評価が散々なのだ。76%の観客は肯定的なスコアを付けているが……。
家族を失った少女と流れ者の冒険を描く
舞台は1990年のアメリカだ。この国では50年代から自律型ロボットが労働力となり人間社会を支えていた。ところがロボットたちが自由や権利を求め始め、それを認めない人間と対立し、戦争に突入してしまう。2年間続いた戦争は人間側が勝利し、ロボットたちはアメリカ南西部の砂漠に設置された制限区域(EX)に閉じ込められてしまう。その描写は、分離壁に囲まれたパレスチナ自治区のようである。
戦後(94年)、両親と弟を交通事故で亡くしたティーンエージャーのミシェル(ミリー・ボビー・ブラウン)を、亡き弟クリスが大好きだった人気アニメーション「キッド・コスモ」のロボットが訪問する。そのロボットは、実は死んでいなかったクリスの意識によってコントロールされていた。ミシェルはクリスの居場所を知っている人物、アマースト博士(キー・ホイ・クァン)を探して制限区域内のある場所を目指す。そして、旅の途中で流れ者のキーツ(クリス・プラット)と出会い、行動をともにする。
™/© 2024 Netflix. Used with Permission.
お気に入りのロボットが必ず見つかるはず
ストーリーには新鮮味も意外性もなく、既視感がつきまとう。だが結論から言うと、筆者はこの映画を楽しんだ。主人公のミシェルを演じるミリー・ボビー・ブラウンは、「ストレンジャー・シングス 未知の世界」や「エノーラ・ホームズの事件簿」シリーズとは異なり、特別な能力や才能を持たないミシェルに、視聴者の視点になる存在としてアプローチした。
愛する弟を捜し出そうとする天涯孤独のティーンエージャーが、旅を通して人やロボットとの出会いを重ね、壮大かつ邪悪な陰謀から地球を守るヒーローへと変容していく姿に、すべての視聴者がエールを送りたくなるはずだ。
アナログ感のあるロボットたちが活躍する、レトロフューチャーな世界観も魅力的だ。ミシェルと行動をともにするキッド・コスモは、表情が固定されているのでキグルミ的な可愛らしさがある。制限区域の廃虚となったショッピングモールには、かつて自由と権利を求めたロボットたちのリーダー、ミスター・ピーナッツを中心にロボットたちが身を寄せ合って暮らしている。美容院で働いていた髪切りロボットや、郵便配達ロボットなど、二つと同じ造形のない個性豊かなロボットたちの中に、きっとお気に入りのキャラクターが見つかるはずだ。
筆者が偏愛するロボットは、キーツの相棒ハーマンだ。サイズ感や頭部のフォルムにR2-D2(「スター・ウォーズ」シリーズ)の影響が見受けられる、いかにもロボットらしいロボットだが、人間以上によくしゃべる。そして、ビット数の低いライトで表示される表情の変化がとっても愛らしい。
喜び、怒り、驚きといった表情はもちろん、お金の話をしたときに目が$マークになるなど、遊び心のあるバリエーションで楽しませてくれるハーマンに目がくぎ付けに。普段は100cmくらいの身長だが、自分モデルの大型ロボットをコックピットに座って自ら操縦する、マトリョーシカのような見せ場もお見逃しなく。
願わくば、シネスコで見たかった
本作はキーツとハーマンの種を超えたバディームービーともいえる。2人が軽妙な会話のやりとりをし、あうんの呼吸で敵と戦うシーンがいちいち死亡フラグに見えて、喪失の予感に〝フライング泣き〟をしてしまいそうになった。すべて筆者の勝手な先読みなのだが……。
と言いつつも、物足りなさがあるのは否めない。それがなんなのかは、本作の原作である、シモン・ストーレンハーグの同名グラフィックノベルを参照したときにはっきりとした。ストーレンハーグが描く、巨大なロボットと、荒廃したアメリカの風景が織りなす一枚絵が圧倒的なのだ。空間の多い風景の中に、小さな人間と巨大なロボットを相対的に配置することで、自分たちが作ったロボットに対する恐怖心や、人間の無力さ、愚かさが、強烈に描き出されているのだ。
一方、ルッソ兄弟の作った映像は、テレビサイズの画面で描く人間ドラマの中に、ロボットたちが親密に、言い換えると窮屈そうに相まみえている。それはそれで携帯端末でも見やすくはあるし、日本の試聴ランキングで1位になっているので(3/18)、ひとつの正解なのだろう。だが、ストーレンハーグの世界観に忠実に映像化するならば、劇場のスクリーンを想定し、シネスコで実写化すべきだったと思う。ドゥニ・ビルヌーブの「メッセージ」のような圧倒的な映像と音響で体感したかった。
Netflix映画「エレクトリック・ステイト」は独占配信中。