2022年もはや7月。上半期の映画界では、新作に加えてコロナ禍で延期されていた作品がようやく公開され、ヒットも続発。映画館のにぎわいも戻ってきた。ひとシネマ執筆陣が5本を選び、上半期を振り返ります。
2022.7.08
固有名詞取り去って不条理示す「国境の夜想曲」 藤原帰一
① 「国境の夜想曲」(ジャンフランコ・ロージ監督)
② 「ドンバス」(セルゲイ・ロズニツァ監督)
③ 「ワン・セカンド 永遠の24フレーム」(チャン・イーモウ監督)
④ 「カモン カモン」(マイク・ミルズ監督)
⑤ 「リコリス・ピザ」(ポール・トーマス・アンダーソン監督)
映画を引きずり回す暴力
内戦、独裁、戦争が映画を引きずり回している。ジャンフランコ・ロージのドキュメンタリー「国境の夜想曲」は地名や固有名詞を取り去った大胆な構成によってシリア内戦の不条理を観客に突きつける、「海は燃えている」に続く傑作だ。ウクライナ東部 のドンバスにおける親ロシア派勢力の支配を捉えた「ドンバス」も観客への説明を一切省いているため、占領統治の不条理さが鮮明に捉えている。
「ドンバス」©︎MA.JA.DE FICTION ARTHOUSE TRAFFIC JBA PRODUCTION GRANIET FILM DIGITAL CUBE
チャン・イーモウの「ワン・セカンド 永遠の24フレーム」はあふれる映画愛の下に文化大革命のもとの強制的大衆動員の不条理がのぞいていた。政治が振り回す混乱した世界のなかではプライベートな人のつながりを求めてしまう。マイク・ミルズの「カモン カモン」におけるホアキン・フェニックスと少年の繊細な表現、そしてポール・トーマス・アンダーソンの「リコリス・ピザ」でスクリーンを駆け回る若い男と女の姿に、荒れた世界のなかの救いを見て息をつく半年だった。
シネマの週末 この1本:「国境の夜想曲」戦禍を生きる声なき声