「チャートの裏側」映画評論家の大高宏雄さんが、興行ランキングの背景を分析します

「チャートの裏側」映画評論家の大高宏雄さんが、興行ランキングの背景を分析します

2021.10.14

チャートの裏側:話題作 一国主義を超え

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

チャート外に洋画話題作が目立つ。「最後の日本兵」として知られる小野田寛郎を描いた合作映画「ONODA一万夜を越えて」や園子温監督の初ハリウッド作「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」などだ。スクリーン数が100以下ということもあり、10位以内に入ってこない。

2本で重要なのは国境を超えた映画製作だ。外国人が日本を描く。日本の監督が海外作品を作る。「MINAMATAミナマタ」もその1本。日本の映画界は人的交流や市場性を含めて、内向きになる傾向が強い。ここにきて、その流れに変化が起こり始めているのが面白い。

「ONODA」には驚いた。小野田をはじめ、登場人物がステレオタイプな日本人像になっていなかったからだ。戦争の病理は、いかなる国にも連綿と根をはっているのではないか。日本人との真摯(しんし)な向き合い方が、逆に普遍性を帯びる。小野田寛郎は、どの国にもいると思う。

問題作(ONODA)とエンタメ作品(園作品)では、国境を超えた製作の意味は違う。ただ一つ、共通点がある。どのようにかかわり合おうとも、狭い一国主義的視点に埋没してはならないことだ。そこではスタッフ、俳優たちの知恵、協力関係がもっとも大切になってくる。興行面での問題点ともども、もっと論議されていいテーマだ。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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