©2024「52ヘルツのクジラたち」製作委員会

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2024.2.27

杉咲花は心に渦巻くさまざまな感情を、全て違う色の涙で私たちへ伝える「52ヘルツのクジラたち」

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

波多野菜央

波多野菜央

2021年、本屋大賞に輝き大ベストセラーとなった「52ヘルツのクジラたち」。原作者の町田そのこさんは福岡出身で私の住む北九州市にも大変縁があり、北九州の書店では特設コーナーで手厚く陳列されていた。パッと目をひくタイトルと瑞々(みずみず)しさを感じる青い表紙の本がずらりと並べられた光景が、記憶に残っている。


2人は未来をどう変えていくのか

東京から海辺の街の一軒家へ移り住んだ貴瑚は、虐待により声を出せない少年「ムシ」と出会う。貴瑚には彼を見過ごせない理由があった。互いの傷だらけの過去と現在を行き交い、2人は未来をどう変えていくのか・・・・・・。

この世で一番孤独な存在

世界にただ一頭の「52ヘルツのクジラ」。他のクジラが聞き取れない周波数で鳴くことから、この世で一番孤独な存在だと言われている。劇中でも聞こえてくる少し高めの鳴き声は、とても神秘的で底知れぬ寂しさも感じた。そんなクジラに自分を重ねることで寂しさを乗り越えてきた貴瑚と同様に、少年もその声に共鳴していく。

抱える傷の根深さとの対比

私がまず感動したのは、原作で感じた夏の湿った匂いや潮風の涼しさを、見事に可視化してくれた映像だ。貴瑚がなぜこの街を選んだのか? 大分の澄んだ景色に改めてその理由が分かり、物語の解像度がグッと上がった気がした。大分のロケーションの素晴らしさ、土地が発するエネルギーの強さもさることながら、美術部が増築したという民家の木造テラスに目をひかれた。このテラスからは別府湾を一望することができ、その水面の煌(きら)めきと彼女たちが抱える傷の根深さとの対比が残酷で美しい。画面越しの私たちも同じ場所に立っているような感覚にさせてくれる、物語上でとても重要な役割を担う場所だ。
さらに、物語が大きく展開するパートでもある小倉のシーンは、北九州市民として特に見逃せない。街のシンボルでもあるチャチャタウンの観覧車から、馬借などの超ディープな地名の登場、見慣れた街並みまで。ハッとする瞬間の連続に喜ばずにはいられない。大分と北九州、ふたつの地に縁がある方にとっては、より見応えのある一作となるだろう。
風景の見せ方や音の使い方で作品の世界観を広げながら、登場人物の心情や関係性をこれでもかとダイレクトに受け止められるような構成に、成島出監督や製作チームの原作へのリスペクトと本気を感じた。

限界ギリギリの表情

俳優陣の中でも素晴らしいのがやはり、主人公を演じる杉咲花。人懐っこくあどけない笑顔を見せたかと思えば、限界ギリギリの表情で緊張感を漂わせる。一体彼女は、いく通りの涙を表現できるのだろう。諦め、我慢、絶望、希望、安堵(あんど)、信頼、孤独、困惑、恐怖、そしてまた絶望。貴瑚の心に渦巻くさまざまな感情を、全て違う色の涙で私たちへ伝える。同じ絶望の涙でも濃度やニュアンスを変え、細かい背景をこちらに想像させる圧倒的な表現力に、終始心を揺さぶられた。

そして、貴瑚を救う岡田安吾役の志尊淳。アンさんの苦悩や愛情を絶妙な力加減で演じ、相づちやせりふの言い回しひとつひとつにキャラクターの人生を投影する姿に、俳優としての入念な姿勢が表れていた。

叫びを聞こうとすれば、何かが変わる

複雑で目まぐるしい生活の中で生まれる孤独や人に言えない悩み。それぞれの周波数を持つ私たちは「52ヘルツのクジラ」のように、声なき声を上げながら現代社会の海を漂っている。自分のことで精いっぱいの毎日だが、ひょっとすると大切な人が限界を感じているかもしれない。そんな時、貴瑚やアンさんのようにその叫びを聞こうとすれば、何かが変わる可能性があることを気付かせてくれた優しい映画だ。春に向けて新たな出会いがあるこのタイミングで出会うべき、多くの孤独なクジラたちの味方となる作品だった。
3月1日(金)公開。

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ライター
波多野菜央

波多野菜央

はたの・なお
1996.10.4 生まれ
北九州発シンガーソングライター 。エネルギッシュなステージングと持ち前の元気の良さは これ以上にない武器 。ストレートかつ表現にこだわった歌詞中域から低音が特徴的な説得力のある声は現代の音楽シーンで存在感を放つ。明るいキャラクターとのギャップで聞き手の心を掴み北九州を中心に イベント、TV ラジオ、CMで活動中 。
波多野菜央のプロフィール|VIRAL(バイラル)

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