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2022.12.31
平和への祈り 「長崎追想~父・井上ひさしへの旅~」公開にあたって
あけましておめでとうございます。
旧年の2022年は「破壊と再生の年」と言われていましたが、明けたばかりの今年23年は一体どんな年になるのでしょうか。
演劇を通して平和活動をする劇団
私事で言えば、こまつ座という劇団を任されて14年目を迎えました。先代の劇団代表であった父・井上ひさしから引き継いですぐに父は他界、その後、東日本大震災、コロナ禍での演劇制作を続けていますが、辛(つら)い事の方がずっと多かったと記憶しています。
そんな日々を救ってくれたのが、初日です。それぞれの作品のお披露目にもあたる初日は特別な日でこれまでのマイナスの出来事もすべてプラスに変化していく…・・・幸せな瞬間です。
演劇を通して平和活動をする劇団であり続けるというこまつ座の理念は、ずっと変わらない姿勢です。今年劇団発足から40年を迎えます。
命の三部作
こまつ座には様々な三部作がありますが、その中で‘‘命の三部作’’という演目レパートリーがあります。
三部作の一作目「父と暮せば」はこまつ座のライフワークとして上演回数を重ねている作品。原爆投下から三年後のヒロシマを舞台に、死んだはずの父親が恋の応援団長として生き残った娘のところにやってくる、奇跡のような三日間を描いています。
二作目にあたる「木の上の軍隊」は井上ひさしの死後、作家の遺(のこ)した種(アイデア)からスタートした沖縄のお話でした。ただ、しかしこの作品には明確な土地は示されていません。敵国からも自国からも追い詰められた沖縄戦の最中に、ガジュマルの木に逃げ込んだ二人の兵士の実話から出来た作品。人と人が理解し合うことの難しさ、尊い犠牲を払っても止めることのできなかった戦争、戦後の沖縄の姿。ヒロシマ、そしてオキナワ、ナガサキを描きたかった井上ひさしの思いを引き継いで作られたこの作品は日本だけでなく、世界中で上演を切望されています。
「母と暮せば」はその三作目。「父と暮せば」の対になるようにという井上ひさしの言葉を受けて作られた作品の舞台は原爆投下から三年後のナガサキです。
死んだはずの息子が、母親のもとに現れて母親に命をつなぐ仕事を続けて欲しいと登場します。生きる術(すべ)を失った母親は、その息子の言葉から、葛藤を経て死から生へ目を向けていく物語です。
大切な人を失ったすべての人へ、そして大切な人を守りたいすべての人へを紡ぐ物語となりました。
いずれも再生の香りがする三部作、私たちの大切な宝物のような作品群です。
声なき声に代わって舞台という場所で
ウクライナ侵攻から勃発した対ロシアとの戦争は、戦争なんて過去の事と信じたかった私たちに大きな衝撃を与えました。今時そんなことがある訳がないと誰しもがそう思ったと思います。じわじわと戦いの影響が様々な形で私たちの普通の生活にも影響を及ぼし始めています。今現在に於(お)いて唯一の被爆国である日本、そして犠牲になったすべての御霊様たちの声なき声に代わって舞台という場所にその人たちの声を届けたいと思っています。
今はその声を聞く事はできませんが、今こそ、その声を聞く事が重要です。
父が遺した私への宿題
「母と暮せば」のanother storyともいえる映画が出来上がりました。
「長崎追想」という映画です。
「母と暮せば」を作るにあたり、どんな人に会ってきたのか、何を形にしたらいいのか。人知れず幾度となく通った長崎で出会った人たちとの交流、そして井上ひさしが遺した私への宿題を果たすべく旅に出たそのままの姿を撮って頂いたドキュメンタリー映画です。
破壊と再生のあと、世の中は整い、一人一人の生活が整い、その上に国が整う。
バタフライ効果を信じて
水惑星である私たちの地球が整うことを意識した一年となりますように。
そんな小さな気持ちの持ちようの中にこそ、本当の平和があるように思えてなりません。
私はいつだってバタフライ効果を信じています。一人一人の小さな変化がいつか大きな平和への思いに繫(つな)がっていくことを。
「長崎追想~父・井上ひさしへの旅~」2023年1月2日/3日/5日/6日13:00/15:30東京・恵比寿・東京都写真美術館にて上映。