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2024.8.19
黒澤明の大傑作「天国と地獄」がベース、ソダーバーグ監督の演出がさえるスリラー「フル・サークル」:オンラインの森
アカデミー賞受賞監督スティーブン・ソダーバーグが手掛けたミニシリーズ「フル・サークル」は、黒澤明監督の大傑作「天国と地獄」をベースにしている。1963年に公開された「天国と地獄」は、三船敏郎ふんする富豪の息子と間違えられて使用人の子供が誘拐されてしまい、真犯人のゆがんだ動機から、貧富の格差が生み出す社会のゆがみをあぶりだす犯罪サスペンスだった。
ソダーバーグとは旧知の脚本家、エド・ソロモンが発案したという「フル・サークル」は、富豪の子供と間違えられてまったくの別人が誘拐されるというプロットは同じだが、「天国と地獄」から約60年を経た今、現代の事件がいかに複雑怪奇になるのかを証明するような、非常に入り組んだスリラーになっている。
なのでどうか、全6エピソードある第1回だけは、次々と現れる登場人物の数の多さやそれぞれが属するつながりの多様さにひるむことなく、なんならすべてを理解しようとは思わずに最後まで見切ってほしい。いざ誘拐事件が動き出すと、事態はまったく予想しない方向へと転がり出し、物語もキャラクターも一筋縄ではいかない面白さを放ち始めるからだ。
ザジー・ビーツら精鋭ぞろいの役者陣、ソダーバーグのソリッドな演出で全6話を見せきる
カリスマシェフを看板にしたフードビジネスで成功した富裕層一家、誘拐事件の糸を引くガイアナ移民の犯罪集団、事件の駒として利用される不法移民の若者たち、縦割り主義で協働することが難しい複数の捜査当局……。特徴的なのは、全体をつかさどる絶対的な黒幕などは存在せず、誰もがそれぞれの事情と秘密を抱え、それぞれが勝手な欲得で動き、事態をよりいっそうややこしくしてしまうこと。
気がつけば誰もがコントロールを失い、状況に翻弄(ほんろう)され、混沌(こんとん)の度合いは増すばかり。〝完全な円〟を意味するタイトルとは裏腹な不格好な図式には、「混迷を極めるこの世の中に一本の筋書きなんてない」とでも言いたげな、キツい皮肉が込められているように感じる。
息子を誘拐される母親に「ロミオ+ジュリエット」「HOMELAND」のクレア・デインズ、その父親のカリスマシェフにデニス・クエイド、犯罪組織のボスに「バグダッド・カフェ」のCCH・パウンダー、米国郵便監察局の捜査官に「ジョーカー」のザジー・ビーツと、精鋭ぞろいのキャスティングはまさに適材適所。情報量が濃密でそれなりの集中力を要するが、ムダを嫌う達人ソダーバーグのソリッドな演出がさえ渡り、ほとんど目を離す暇のない緊迫の約5時間を堪能した。
「フル・サークル」はU-NEXTで独占配信中。