「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」のシガニー・ウィーバー=猪飼健史撮影

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」のシガニー・ウィーバー=猪飼健史撮影

2022.12.22

インタビュー:シガニー・ウィーバー「デジタル技術が進んだからこそ、優れた俳優が必要なのです」 「アバター」続編で14歳の異星人

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勝田友巳

勝田友巳

シガニー・ウィーバーが「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」のどこに出ているか、ほとんどの人は気づかないだろう。重要な役どころにもかかわらず。70代のウィーバーが演じているのは14歳、惑星パンドラの種族ナヴィの緑色の少女キリだ。モーションキャプチャーで動きを取り入れ、デジタル加工で姿形をすっかり変えられている。面影がわずかに残る程度では、俳優の出番はなくなるのでは。「そんなことはない、絶対に」。インタビューに応じたウィーバーは、強く否定した。

 

子供を観察して役作り

2009年に大ヒットした「アバター」の続編4本を、ジェームズ・キャメロン監督は一挙に製作したという。「ウェイ・オブ・ウォーター」はシリーズ2作目となる。米国の元海兵隊員だったジェイクは、前作でナヴィとして生まれ変わり、家族を持ち森の民を率いる族長となっている。地球人が再び襲来し、ジェイクは家族とともに森を離れ海の民に身を寄せる。
 
キリは、前作でウィーバーが演じた地球人の科学者グレース博士と、ナヴィとの間の娘だ。父親が誰か分からないが、ジェイク一家の養女となっている。パンドラと交信する不思議な力を持ち、海の中を自在に動き回る。シリーズのカギを握りそうな役どころ。キリの繊細な表情も、ウィーバーの演技をデジタル技術で変換している。
 
「準備期間が3、4年あったので、この年ごろの子供たちを観察しました。教室に入ってみたら、声の幅がとても広いことに気付いたんです。そんなことを自分の中にため込んで、素の自分は後ろに隠して、14歳のいろんな面を出しながら楽しんで演じられた。キリは優しく情熱的で、自然とつながっています。解放感を味わいながらの挑戦でした。モーションキャプチャーのおかげで、どんな役にもなれますよ」


 

演技の基本が問われるモーションキャプチャー

スクリーンのキリはパンドラの色とりどりの動植物と共演し、自在に動き回っているが、撮影時のウィーバーはヘルメットに黒いレオタード姿で、体中にセンサーを貼り付けていた。もちろん周囲には何もない。
 
「演技の基本に戻りました。セットも照明もない空間で、衣装も髪もメークもしない。あっても小道具が少しだけ。そこでの演技は純粋なんです。自分の演技を忠実に、正確にすることだけが大事なんです」
 
水の中でも使えるモーションキャプチャーの技術を開発し、巨大なプールを造って水中でも長時間撮影した。水中で演技している間はセンサーが気泡を捉えてしまうため、息ができない。
 

水中で息止め、6分半

「大変でしたよ。撮影前に素潜りの訓練をして、息の止め方を学んで体を作ったんです。5~6メートルの水中で動かなくてはいけないですから」。訓練で長く息を止めることができるそうで、「私の記録は6分半」というから驚き。
 
「キリは水の中が家のような少女。撮影する時はダイバーが一緒に潜って、私の周りで水中生物のふりをして助けてはくれました。でもそれ以外は自分で想像しないといけない。私は想像力はある方だから、楽しかったですよ」

 
「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」© 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

創造の源は生身の体

ウィーバーだけでなく主演のサム・ワーシントンも助演のケイト・ウィンスレットも、今作では一度も生身で登場しない。映画に必要なのは俳優ではなくデータになってしまうのでは?
 
「いいえ、この技術ではこれまで以上に、俳優が必要とされるんです。モーションキャプチャーは演技のエッセンスを記録します。黒いスーツを着るのは最良の俳優でなければならないし、力強く正確な演技をしなくてはいけない。デジタル処理をする人たちも、その演技によって刺激を受けるんです。彼らは繊細で多様なキリを生み出してくれました。感情に訴えかける物語を作るなら、絶対に俳優が必要なんです」


演技は仕事より遊び

キャメロンとは、「エイリアン2」(1986年)以来の長い付き合い。「彼と仕事ができるのは幸運です。彼の脚本はキャラクターが複雑で、物語も素晴らしい。私は強い女性を演じることも多いけれど、実はけっこうおっちょこちょい。キリを演じるにあたってはジェームズから『君はドジで無垢(むく)な一面もあるから、ピッタリだ』と言われました」
 
CGの助けを借りているとはいえ、14歳を演じるには若々しい精神が不可欠だろう。「情熱は年齢と関係ありません。なるべく同じ役を繰り返さないように、幅広い作品に出演したいと思っています」。「アバター」の他に3本が待機しているという。「どれも違った役で、ありがたいです。多くの作品に出会えているのは幸運だし、いい脚本からエネルギーをもらっています。年齢とともに自信がついて、演じることは仕事というより遊びに近い。今はとてもハッピー」

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

カメラマン
ひとしねま

猪飼健史

いかい・けんじ 毎日新聞写真部カメラマン