毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.2.25
「ある殺人、落葉のころに」
「3泊4日、5時の鐘」でデビューした三沢拓哉監督の第2作。舞台は同じ神奈川・大磯だが、軽快なコメディー調の前作とは一転、不穏な空気漂う群像劇だ。
同じ高校を卒業して地元で暮らす4人組。全員が和也(森優作)の父親が経営する土建屋で働いている。ダラダラとつるむ4人だが、和也を中心とした微妙な力学が働いている。社長の息子に対する遠慮や追従、権高な態度への反感。俊は死んだ恩師の妻にひかれ、恋人のいる英太は和也に気を使う。知樹は俊に好意を寄せている。
説明せずにほのめかすだけ。言葉にはされず、はっきりとは表情にも表れないものの、押し殺した感情を確かに感じさせる。人間の機微を映像で捉えようとする才気は前作と違うベクトルに向けられて、どこに向かうのか分からないまま不安は最後まで増長してゆく。さじ加減が絶妙だ。
ただタイトルを含め、不可解さを助長する仕掛けに凝りすぎて、かえって緊張を緩めてしまったのでは。1時間19分。東京・ユーロスペースで公開中。順次全国でも。(勝)
異論あり
無人の風景のインサート、省略の多用が特徴的で、若者たちの鬱屈した感情や人間関係の不協和音などをあぶり出す演出力が秀逸。そのセンスと技巧が際立つ一方で曖昧な時間が長く、長編映画としてはメリハリ、インパクトに欠ける。人物描写も含め、突き抜けた何かがほしい。(諭)