「終わらない週末」より ©2023 NETFLIX, INC.

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2023.12.18

オバマ元大統領夫妻もプロデュース。アメリカに起こりうる終末のシナリオを描いた「終わらない週末」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、村山章、大野友嘉子、梅山富美子の4人です。

ひとしねま

須永貴子

12月8日から「終わらない週末」の配信がNetflixで始まった。ジュリア・ロバーツとイーサン・ホークが夫婦役を演じ、「グリーンブック」のマハーシャラ・アリの他、ケン・ベーコンもクレジットされているスリラーだ。
 
原作はルマーン・アラムの同名小説で、脚本・監督は映画「コメット」や人気ドラマシリーズ「MR. ROBOT ミスター・ロボット」のサム・エスメイル、オバマ元大統領夫妻がエグゼクティブプロデューサーに名を連ねている。
 


夏のバケーションに出かけた一家に起こる出来事を描く

 広告業界で働くアマンダ(ジュリア・ロバーツ)と大学教授のクレイ(イーサン・ホーク)は、16歳の息子・アーチーと13歳の娘・ローズと4人でニューヨークのブルックリンに暮らしている。ある夏の朝、アマンダが衝動的に予約したロングアイランドの貸邸宅で、家族は1週間の予定でバケーションを過ごす。
 
「なぜ今日なんだ?」という夫の質問に、窓の外を眺めながらああだこうだと語ったアマンダが、カメラ目線で「私は人が大嫌い(だから人の少ない場所へ行きたい)」と言い切ってオープニングへ。原題のLEAVE THE WORLD BEHINDのグラフィックとともに、Joey Bada$$の「THE REV3NGE」が流れ出す瞬間のクールなインパクトに鳥肌が立つ。赤、白、黒の3色で構成されたアニメーションに描かれる幾何学的模様が、そのフォルムを変えていく。
 
模様のモチーフは、鳥や動物、時計、車、トランシーバー、人工衛星、円やらせんなどを認識できたが、わからないものもたくさんあった。これらがこれから始まる物語を示唆しているので、オープニングではぜひ目を皿にして見てほしい。
 

オープニングだけでなく、全編を覆う不穏で強烈な映像が観客を揺さぶる

 オープニングだけでなく、全編を通して不穏かつ強烈な映像で観客の心を揺さぶっていく。ファーストインパクトは、4人がビーチでくつろいでいるところに出現する石油タンカーだ。ローズが水平線のあたりにそれを見つけたときは誰も気にせずくつろいでいたが、数十分後にアマンダが海の方に目を向けると、いつの間にかタンカーが真っぐこちらに向かってきていた。
 
まさかの事態に慌てて荷物をまとめて逃げ出すと間一髪、タンカーがそのまま浜辺に座礁した。下から船首を捉えたショットが、まるで超巨大なサメのようである。クレイが海水浴客を誘導する係員に何が起きたのかを質問すると、「航法システムの問題で船舶が数隻座礁した」という。
 
帰宅するとWi-Fiも携帯電話もつながらず、テレビも映らず、情報が収集できず不安が募る。その夜、邸宅の持ち主だというジョージ(マハーシャラ・アリ)と娘のルース(マハイラ)の訪問を受ける。ニューヨーク市内の自宅に向かっていたジョージたちが言うには、市内が停電で機能不全に陥ったため、彼らにとってセカンドハウスであるこの邸宅に戻ってきたのだという。
 

画面を左右に二分割するショットから、アメリカに存在する人種的分断が伝わる

画面を左右に二分割する縦線がドアである。それを挟むように、外にいるジョージ親子と屋内にいるアマンダを配置する。このショットが意味するものは白人と黒人の分断だ。ジョージ親子が富裕層に属するのは明らかだが、アマンダは彼らをなかなか信用しようとしない。もしもジョージたちが自分と同じ人種だったら、アマンダはもっと早く警戒心を解いただろう。
 
クレイが取りなす形で、ジョージ親子が地下室(といっても窓がないだけで広々としたすてきな部屋だが)に泊まることになる。アマンダたちの寝室からカメラが降下して地下室を映し出す。ここでも上下二分割のショットによりアメリカに存在する人種的階層が伝わってくる。
 
翌日、アメリカ全土がサイバー攻撃を受けたため、国家非常事態宣言が発令される。この日、庭にいるローズの前に現れた鹿の大群が、本作における映像的なセカンドインパクトだ。サードインパクトは、ロングアイランドからの脱出を決意したアマンダ一家が目の当たりにした、ハイウエーに乗り捨てられた大量のテスラ(電気自動車)だ。
 
カメラが俯瞰(ふかん)から捉えたショットは、「ラ・ラ・ランド」の冒頭のミュージカルシーンの地獄版といった趣といえる。アーチーの歯が突然ボロボロと抜けていくシーンはさすがに夢かと思ったが、それすらその前に起きたある出来事が原因だとひも付けられる。
 
この映画で私たちが目撃するのは、大国アメリカにとって起こりうる終末のシナリオだ。本作は終末を生き抜くサバイバルストーリーではなく、終わりの始まりに突き落とされる恐怖を描く。しかし単なる絶望だけで終わらないラストショットにニヤリとしてしまった。ローズが執着していたドラマシリーズ「フレンズ」の伏線を、まさかこんなふうに回収するとは。
 
「終わらない週末」はNetflixで配信中。

ライター
ひとしねま

須永貴子

すなが・たかこ ライター。映画やドラマ、TVバラエティーをメインの領域に、インタビューや作品レビューを執筆。仕事以外で好きなものは、食、酒、旅、犬。

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