第2回新潟国際アニメーション映画祭のミーティングで、コンペティション部門の出品者(右)と車座になって意見を交わすアジアの若者たち=勝田友巳撮影

第2回新潟国際アニメーション映画祭のミーティングで、コンペティション部門の出品者(右)と車座になって意見を交わすアジアの若者たち=勝田友巳撮影

2024.4.07

課題はあっても志高く アニメ文化発展に充実を期待「新潟国際アニメーション映画祭」ルポ

公開映画情報を中心に、映画評、トピックスやキャンペーン、試写会情報などを紹介します。

勝田友巳

勝田友巳

3月15~20日に開かれた第2回新潟国際アニメーション映画祭。アニメ映画祭は多々あれど、新潟は長編アニメに特化した、世界でも例がない映画祭。長編アニメは興行的には重要な〝商品〟だが、芸術的な〝作品〟としては評価されにくい。日本ではシリーズものとテレビアニメの劇場版が主流でも、世界各地で多様な長編アニメが作られている。アニメ文化と産業の振興を新潟から――高い志を掲げる新潟国際アニメ映画祭をのぞいてみた。


日本の現状、変えるきっかけに

2023年の邦画興行収入上位10作のうち6作がアニメ。「THE FIRST SLAM DUNK」「名探偵コナン 黒鉄の魚影」「ドラえもん のび太と空の理想郷」など、シリーズものや人気原作、テレビアニメの劇場版が並ぶ。ファンが何度も見に行って数字ではヒットするが、観客層に広がりがない。知名度に頼れない海外では公開すらおぼつかない。原作でもシリーズでもないオリジナル作品が苦戦しがちなのは、実写以上だろう。

国内外のインディペンデント映画を手がけてきたプロデューサーの堀越謙三と、アニメーションに力を入れる製作会社ジェンコ社長の真木太郎が「現状は健全とは言いがたい」という意見で一致、映画祭を企画する。新潟市は「マンガ・アニメのまち」構想を掲げて「にいがたマンガ大賞」「にいがたアニメ・マンガフェスティバル」を開催し、「新潟市マンガ・アニメ情報館」などの施設も備えている。堀越が同市内の開志専門職大学アニメ・マンガ学部教授を務めていたこともあり、会場に選定した。

堀越は「日本のアニメファンは日本の作品しか見ない。企画は硬直化し、オリジナルの作品が出にくくなっている。東京から離れた開放的な場所で多様なアニメに触れ、国内外の作り手たちが互いに刺激を受けてほしい」と狙いを話す。

インディペンデントでも製作可能に

アニメの国際映画祭は、3大アニメ映画祭といわれるフランス・アヌシー、カナダ・オタワ、クロアチア・ザグレブのほか各地にある。日本では広島国際アニメーションフェスティバル(20年に第18回で終了。以降は「ひろしまアニメーションシーズン」として縮小継続)が知られ、近年では北海道・新千歳空港国際アニメーション映画祭が実績を重ねている。ただ、それら国内外のアニメ映画祭はいずれもアート系の短編アニメが中心だ。短編なら作家が個人でコツコツと作れるが、長編となると資金も手間も桁違いに必要となる。

そんなわけで、長編アニメは商業作品として製作されることが大半で、資金と技術を持つ日米やヨーロッパの一部の国に限られていた。そして多くの商業アニメは公開ギリギリまで完成せず、映画祭での受賞などによる宣伝効果も期待できない。情報管理も厳重で、映画祭に出品する余裕もメリットもなかった。しかしデジタル技術の進化により、小規模体制でも製作が可能になり、広い地域で多くの作品が作られるようになった。こうした長編アニメに光を当て、新潟を、世界からアニメが集まり情報を発信する拠点にしようという映画祭なのである。


第2回新潟国際アニメーション映画祭コンペティション部門でグランプリを受賞したカナダの「アダムが変わるとき」(ジョエル・ボードロイユ監督)=映画祭提供

コンペ応募作品が倍増

今回のコンペティション部門には29カ国・地域から49作品の応募があり、このうち12本を選出した。昨年の第1回が応募20本というから倍増以上だ。これほど応募を集めたのも、コンペに10本以上の作品を並べたのもアジアでは新潟アニメ映画祭だけという。

コンペ作品には欧米や日本のほか、タイ、コロンビア、ブラジルからの作品も選出された。日本の「アリスとテレスのまぼろし工場」のようなメジャー級の作品から、小規模スタジオや個人製作に近い形で作られたインディペンデント作品まで幅広い。数土直志プログラム・ディレクターは「長編アニメは今、世界中のあらゆる場所で作られるようになった。個人作家が長編作品を作るようになったし、商業公開される映画も増えている」と語る。

才能育成に注力 アジアの若者40人

同映画祭は作品紹介の一方で、才能の育成にも力を入れる。その象徴が日本とアジア諸国の若者を招いた「アニメーションキャンプ」だ。アニメ製作や産業に携わる10~20代の国内外の若者を招待し、世界の監督の話を聞いたり、製作の手ほどきを受けたりと、密度の濃いプログラムで交流を図った。20人の海外募集枠に710人もの応募があり、中国、韓国、タイ、ラオス、モンゴルなどからアニメを学ぶ学生や若手作家らが選ばれた。

コンペ出品監督を囲んだミーティングでは、作品の製作体制や技法など突っ込んだやり取りが交わされ、参加者の作品を監督が講評する機会もあった。堀越は「新潟でつながりを育み、キャンプ参加者が作品を持って帰ってくる循環を作りたい」と期待する。

新潟アニメ映画祭の志は高いものの、まだまだ発展途上で、課題は多い。「前回に比べ、応募作品数は増えたし、観客も倍増した」と映画祭側は強調するが、国内外でも地元でも、認知度向上はこれからだ。未知のインディペンデントアニメを求める観客は多くない。いかにその裾野を広げ、新潟まで呼び込むか。行政との連携や財政基盤の確立も急がねばならない。

それでも真木は映画祭に期待をかける。「日本のアニメは多様性が欠け、新しい才能が出にくくなっている。今後はマーケットも併設し、作り手とプロデューサーを結び、新しい作家を発掘する場としたい」。映画祭は地道な実績を重ねることで成果を生んでいく。アニメーションキャンプも繰り返し実施し多くの若者が訪れることで、〝新潟育ち〟の作り手たちがネットワークを作ることになる。新潟アニメ映画祭は一歩を踏み出したばかり。継続と発展に期待したい。 

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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  • 第2回新潟国際アニメーション映画祭コンペティション部門受賞者
  • 第2回新潟国際アニメーション映画祭ポスター
  • 第2回新潟国際アニメーション映画祭では作品上映後、監督を囲んだ観客との質疑応答も行われた。作り手と観客の距離の近さは、映画祭ならでは。中央はコロンビアのディエゴ・フェリペ・グスマン監督
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