毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.7.15
チャートの裏側:今風「不良性感度」の鉱脈
映画界に「不良性感度」という言葉があった。映画の内容やテイストを表す。俳優の資質を指す説もあり、定義は少々ややこしい。東映のヤクザ映画が盛んな頃、よく使われた。アウトロー、暴走族、スケバン映画、一部のポルノ映画などにも及び、意味する範囲は結構広い。
すでに死語だろうが、新作の「東京リベンジャーズ」を見て、あえて引っ張り出したくなった。本作は、スタート3日間で興行収入が7億円弱だ。堂々たる大ヒットと言っていい。邦画は、昔から「不良性感度」映画が得意だ。このジャンルは時代を超えるのかと思った。
2010年ごろの不良高校生たちの抗争劇を描く。ただ、やはり今の時代である。20年を起点にしたタイムスリップものという新規性をもつ(原作はコミック)。かつてのようにぎすぎすした荒々しい「不良性感度」はなく、存分なマイルドさがある。若手俳優陣の魅力も大きい。
それにしても客層が若い。10、20代の女性が目立ち、小学生もいる。俳優目当ての人が多いのは分かるが、今風「不良性感度」への関心の高さが興味深い。若い女性目線からすれば、男性の不良性がもつ危うい雰囲気、彼らの気持ちの通い合いにひき付けられるのかもしれない。「不良性感度」は、邦画ヒットの一つの鉱脈にも見えてくる。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)