音楽映画は魂の音楽祭である。そう定義してどしどし音楽映画取りあげていきます。夏だけでない、年中無休の音楽祭、シネマ・ソニックが始まります。
2024.2.21
人生のトラウマ体験を消し去る「フレディ・マーキュリー The Show Must Go On」
クイーン、そのカリスマにしてスター、フレディ・マーキュリー体験は僕にとってトラウマでしかなかった。
ラジオから聞こえてきた「ボヘミアン・ラプソディ」はえたいの知れない悪魔のコーラスに聞こえ、映画「メトロポリス」を一緒に見に行った初めての彼女には振られ、テレビで見た「ブレイク・フリー」のひげヅラ女装はLGBTQなど知るよしもない1980年代の田舎の高校生を困惑のどん底にたたき落とした。「ライブ・エード」の最高のパフォーマンスも脚の短いマイクスタンドとタンクトップばかりが目を引いた。そして、最後にはエイズという当時正体不明の病に倒れた。
そんな彼との邂逅(かいこう)は多くの人と同じく2018年公開「ボヘミアン・ラプソディ」だった。大ヒットしたこの映画を見るには分別を持った50代になっていた。2時間18分に凝縮した彼の人生と孤独、まさにグレーテスト・ショーマンであり、スターとしての生きざま。あらゆる要素で人間フレディに迫る物語に涙した。
そして、現在公開中の「フレディ・マーキュリー The Show Must Go On」もさらにフレディやクイーンを理解する助けになる作品だった。
彼らの作品のアート・ワーク、影響を受けたアーティスト、フレディの発声法の原点、そして「ブレイク・フリー」のPV、ライブ・エードの舞台裏などここだけの秘話が語られる。妹のカシミラ・バルサラやカメラマンのミック・ロックなど身近な人々の証言はひと言ひと言に愛が満ちていた。印象的だったのはフレディは「スター像を生きるようになった」ことで非業の死を迎えることになると言う証言だった。
そんなドキュメンタリーを見終わった時には前出のトラウマ体験は全て消し去られた。改めて「ブレイク・フリー」のビデオを見返して、最高のアンセムであることを確認した。
蛇足だが、運命は奇なるものでQUEEN THE GREATEST FIREWORKS 2022 IN Kitakyushuを担当した。故郷の夜空に花火とシンクロしたクイーンの名曲はまだ新型コロナウイルス禍明けやらぬ不安の中でミクニワールドスタジアム北九州の観客を魅了した。先日のアダム・ランバートを迎えた東京公演も大盛況に終わったと聞く。
よく人は2度死ぬと言う。一つは生物的な死。もう一つは人々の記憶から消え去ってしまうこと。フレディにはまだまだ多くの人々の心の中でスター像を生き続けてもらうことになる。