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2022.9.02
シーンが音楽によって際立つ、助けられたり倍増したりする!さかなクンがバスクラリネットを演奏
TOHOシネマズ 日比谷 ほかにて大ヒット上映中の「さかなのこ」(毎日新聞社など製作委員会)の監督沖田修一とサウンドトラックを担当したパスカルズのロケット・マツ、金井太郎、坂本弘道が劇中の音楽の魅力について語り合いました。「生きづらい人たちのファンタジー」にどう劇伴を付けていったか。そんな秘話を語り合ってもらいました。
ーー沖田監督が今回「さかなのこ」の音楽でパスカルズを起用したきっかけはなんでしたか?
沖田修一 パスカルズのみなさんとは今回初めてご一緒しました。これまで劇伴などいろいろ聴かせていただいていまして、特にドラマ「凪のお暇」サントラをライブで演奏しているのを見てすごくいいなと思って。こういう感じの曲をメインテーマにしたいと思ってお願いしました。
ーー一方でパスカルズのみなさんは沖田監督作品をご覧になっていましたか?
ロケット・マツ 金井くんから「南極料理人」(2009年作)の話を聞いて。
金井太郎 「南極料理人」は以前見ました。
坂本弘道 僕も見ました。沖田監督と最初にお会いしたときかな、「南極料理人」の話題で盛り上がっていたから、これは見なきゃなって(笑)。
沖田 ありがとうございます(笑)。
ーーさて、「さかなのこ」はさかなクンの半生を描いたエッセー「さかなクンの一魚一会〜まいにち夢中な人生!〜」を原作とした映画ですが、沖田監督はさかなクンの生き方をもとに、どんな映画にしようと考えましたのでしょう?
沖田 さかなクンのエッセーをもとに映画を作るというアイデアは面白いなと思ったし、自分でもさかなクンみたいに生きられたらいいなって思っていたことがあったんですよね。すごく好きなものがあって、そのことばっかり考えてしまう、そのことにとらわれてしまう、そういう「好き」という気持ちがその人の人生を導いていく……。そういう映画を作れたらという思いがありました。
ーーなるほど。
沖田 さかなクンのエッセーに書かれた半生を再現するのではなくて、映画にするならそこにあまりとらわれないで作りたいと思っていたら、脚本の前田司郎くんがさかなクンでありながらさかなクンじゃない脚本を書いてきたんです。「あ、こういう方法もあるのね」と思いました。それで、人が好きなものの力を映画にすることになりました。
ーーまた沖田監督は、映画製作のなかで音楽というものをどう捉えていますか?
沖田 音楽ってすごく強いと思うんですよね。ちょっと踏み入れられない領域というか、そのシーンが音楽によって際立つ、助けられたり倍増したりすることもあるし、音楽がすべてを決めてしまう場合もある。僕としては普段から慎重に使うようにしています。
ーーパスカルズとしては本作の音楽をどう作られていきましたか?
坂本 沖田監督の慎重な感じ、分かります。僕は演劇の音楽を作ることもあるんですけど、実際に役者が音楽を聴けてしまうので、叙情性とか抑制的でちょうど良かったりします。ウエット過ぎない、今回はそんな感じで取り組みました。
マツ やっぱり引き算だと思うんですよ。あと今回メインテーマを作るうえで、2回提出したんです。大体この3人でそれぞれ提出するんですけど、それで合計6曲作ってそこから1曲が選ばれたという。
沖田 最初にみなさんに、この作品は生きづらい人たちのファンタジーだと思っているという話をしたんです。ファンタジックなものや洋画的なもの、例えばティム・バートン作品みたいなイメージで、音楽もいつも以上に盛り上げたいという意識があったんですけど、結果的に引き算になっていったのかなと。でも、魚の多様性というものをさかなクンから聞いていたので、主人公・ミー坊のお魚を好きな気持ちと大好きなお魚の世界をたくさんの音数を使ったメインテーマで表現したいというイメージはずっとありました。それをみなさんにお願いしました。
ーー本作では原作者のさかなクンがギョギョおじさん役で出演されていますが、そのギョギョおじさんの登場シーンの楽曲では、さかなクンがバスクラリネットを演奏されていますね。
坂本 ギョギョおじさんのシーンの曲は、監督から「低い音で」というオーダーがあったんですよね。
沖田 そうでしたね。それで音を選ばせてもらったんですけど、パスカルズにバスクラリネットの奏者がいなかったんですよ。
坂本 そこでさかなクンにお願いすることになったんですね。
ーーさかなクンのレコーディングはいかがでしたか?
坂本 3時間ぐらいぶっ通しでレコーディングしたんです。休むことなく立ったまま。バスクラって大きいのに、あの体力と集中力はすごいなって。
ーー3時間吹きっぱなしだったんですか。
坂本 そうなんですよ。ぶっ通しレコーディングの終わりに、ギョギョおじさんの部屋にミー坊が行くシーンの曲を試しに頭から最後までいっぺんに吹いてもらったんですね。そのテイクが素晴らしくて。それを採用しました。
沖田 さかなクンはスタジオに到着して車を降りるときに、裸の楽器を抱えて出てきたんですよ。車のなかでも練習していたのかな。いろいろ講演などお仕事があって忙しいのに、体力もすごいあるんだなって思いましたね。いつも元気でテレビで見るあのままで。
坂本 さかなクンのままで来て、音楽もさかなクンで、びっくりするぐらいさかなクンでしたね。
ーー「さかなのこ」でみなさんが印象に残ったシーンはどこでしたか?
沖田 ラストシーンに上の方から俯瞰(ふかん)して撮ったカットがあって、そこでメインテーマがかかっているのを見たときに感動しちゃって。音楽がこの映画の最後の感動を締めてくれたなって思って、そこはすごく気に入ってます。好きな人の今の地点というか、それが幸せに思えたとき、ミー坊っていう魚が好きな人が今ここにいて、子供たちに追いかけられていると思ったときに、それは感動的だなと思って。
マツ 僕も最後のシーンは好きですね。何回も見ているとどんどんよく思えてくる。そこはすごく好きですよ。あとは不良と交流したあとの帰り道のシーンも好きです。なんで好きなのかわからないですけど。
沖田 あそこいいですよね。
坂本 携帯が出ないのがいいなって思いましたね。時代設定上スマホなんかは当然ないし。
沖田 そうだ、全然出てきてないですね。
坂本 あと不良と交流するところで、アジを釣ってナイフでさばくところですね。無慈悲なのかなんなのか、逆に不良たちが引くというのが好きで。
沖田 結構ギョッとするシーンですよね。
坂本 あそこでミー坊が持っている死生観と、不良たちの考えというものが全然違うのが鮮やかだなって、あのギクシャクした会話のなかに、魚という生物を見つめていることへの哲学的なものが見えるんですよね。単純な死生観じゃなくて、大きな生命をつかんでいる人と文明人たちとのギャップがあのシーンに凝縮されているんじゃないかなって思ったんですよね。
金井 僕は自分の曲も使われたところで、幼ななじみのモモコたちと同居するシーンが奇妙な感じで面白かったですね。水族館で働くけどうまくいかないところも好きです。ミー坊の社会に出づらいっていうところが印象に残っていて。
沖田 ミー坊の挫折を描いたところですね。
ーーでは最後に、みなさんから見た本作のここを見てほしい、聴いてほしいというポイントを教えてください。
マツ 沖田監督が”生きづらい人たちのファンタジー”って言っていましたけど、やっぱり好きなことを続けていても、さかなクンはうまくできたけど、なかなか大変な人もいて、そういう人たちも共感する映画だと僕は思っています。いろんな人たちにそう感じ取ってもらえる作品なんじゃないかな。
金井 「好き」という気持ちのパワーが爆発しているのがこの作品。そしてこのサントラを通してそれを感じてもらえたらいいなと思います。マツと坂本さんも同じ気持ちで選曲したと思うので、そこも楽しんでもらいたいですね。
坂本 僕が担当した曲は地味なんですけど、聴いて踊ってもらえたらうれしいですね。さかなクンのバスクラで(笑)。やっぱり自然に体が動くのが音楽だと思うので。
沖田 これだけ前向きな映画に、音楽が思い切り寄り添ってくださったと思っています。いい映画にはいい音楽があると思っていて、そういう作品になって僕はすごくうれしかったです。映画を見る人も、映画のなかでここで流れる音楽がいいなって思う人がいてくれると思うし、そういう人がサントラを聴いて、映画を思い出したりしてくれるとうれしいなと思います。映画と同じように前向きな音楽になっていると思いますし、たくさんの人に自分なりの「好き」を見つけていただけたら、さらにうれしいですね。
【商品情報】
映画「さかなのこ」オリジナルサウンドトラック
音楽 / パスカルズ
発売日:2022年8月31日(水)
税込価格:3,300円 品番:LACA-25013
[商品紹介]
日本中の誰もが知るあのさかなクンの半生を、主演・のん×監督・沖田修一がユーモアたっぷりに描く、2022年9月1日(木)公開の映画「さかなのこ」。お魚が大好きで普通のことが苦手な主人公・ミー坊が、社会の荒波に揉まれながらも自分の「好き」を貫く姿を描くライフストーリーです。ドラマ「凪のお暇」、「妻、小学生になる。」などのドラマや映画、舞台などの音楽も多数手掛けるパスカルズが劇伴を担当。多才なさかなクンがバスクラリネットを担当した楽曲も収録されます。ブックレットにはさかなクンインタビュー、パスカルズ(ロケット・マツ、坂本弘道、金井太郎)×沖田修一監督座談会を掲載!