「グレイマン」Netflixで独占配信中

「グレイマン」Netflixで独占配信中

2022.8.07

ルッソ兄弟が生んだクールな元殺し屋 多彩なアクションと人間的魅力 「グレイマン」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、大野友嘉子、梅山富美子の3人に加え、各ジャンルの精鋭たちが不定期で寄稿します。

ひとしねま

須永貴子

7月22日に世界同時配信された「グレイマン」の、続編とスピンオフの製作が早くも発表された。本作は、CIA(米中央情報局)の暗殺部隊「シエラ」の「シックス(6番目の殺し屋)」ことコート・ジェントリー(ライアン・ゴズリング)が、組織の重要機密を握ってしまったことから、CIAが次々と送り出す殺し屋たちに命を狙われる巻き込まれ型のアクション大作だ。「グレイマン」は「誰も正体を知らない影の存在」という意味の、シックスの異名。つまり、グレイマン=シエラ・シックス=コート・ジェントリーである。


 

バンコク、ウィーン、クロアチア 世界駆ける逃走劇

監督は、「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」と「アベンジャーズ/エンドゲーム」のルッソ兄弟。シックスにとって最大の敵となるサイコパスの殺し屋、ロイド・ハンセンにはルッソ兄弟監督作「キャプテン・アメリカ」でタイトルロールを演じたクリス・エバンス。アメリカ、フランス、チェコ、アゼルバイジャン、オーストリアなどでロケを行い、ストーリー上ではシックスが、バンコクからトルコ、ウィーン、プラハ、そしてクロアチアへと移動する。文字通り、世界を駆け巡る本作は、Netflix作品にありそうでなかったスケールの大きい逃走劇だ。
 
本作を見た人は皆、CIAに追われる元CIA工作員をマット・デイモンが演じたアクション大作、「ボーン・アイデンティティー」から始まったボーンシリーズを連想するだろう。ニューヨーク・タイムズ(2022年7月18日付/Nicole Sperling)によると、その「ボーン・アイデンティティー」シリーズを企画したスコット・ストゥーバーが5年前にNetflixに入社してから目指してきたものが、「グレイマン」のような映画なのだという。なるほど、合点がいった。
 

正義の心残した殺し屋

エバンスにとって初となるビラン(悪役)が話題だが、ゴズリングのシックスも相当に魅力的だ。特殊なガジェットやトレードマークになるようなものはなく、局面ごとにその場にあるものや人を利用して戦うスタイル。服も赤の他人から買い取ってどんどん着替えていく。さすがグレイマン。

どんなに過酷な状況でもポーカーフェースで動じない。基本的に物静かで、バトル中にダメージをくらっても叫んだりせず耐えて耐えて耐えきれなくなったときにうめき声を出す程度。その理由は、劇中で明かされる彼の生い立ちによるものだと想像できる。
 
刑務所に収監中、CIAにスカウトされ、訓練されて殺し屋になったが、殺りくマシンではなく、人の心や正義感を持っているからこそ追われる側に。だから視聴者はシックスに親近感を抱き、自然と応援してしまう。ベースが控えめなキャラクターなので、時折繰り出されるシニカルなユーモアと、まさかのウインクの威力がすさまじく高い。
 
シックスを後方支援する、CIA職員で射撃の名手のダニ・ミランダ(アナ・デ・アルマス)との、恋愛の気配が皆無なバディー感もいい。シックスはミランダに対して女性というフィルターを通さず、その能力だけを正確に把握し、戦略を実行していく。ジェンダーの価値観を更新するバディーの誕生は大歓迎だ。
 

プラハ市街で1カ月撮影 人格感じるカーアクション

そして気になるキャラクターがもう1人。シックスの首に懸けられた5000万ドルの懸賞金を求めて世界中から集まる殺し屋の1人、タミル人俳優のダヌーシュが演じるローンウルフだ。圧倒的な強さを見せながら、高潔な人物像が伝わるセリフを残し、戦いのリングから自ら降りる姿が強い印象を残す。ルッソ兄弟もこのキャラクターを気に入っているようで、続編やスピンオフへのローンウルフの出演を匂わせている。
 
バンコクでのニューイヤーパーティーや、飛行機内、落とし穴からの脱出など、多彩なアクションシーンの中でメインとなるのは、1カ月かけて撮影したという、プラハの市街地を走る路面電車を使ったカーアクション。
 
ここでもシックスとミランダの、スリリングなコンビネーションが見どころだ。車を無機物ではなく、人格を持っているかのように映し出す撮影監督は「ワイルド・スピード」シリーズで知られるスティーブン・F・ウィンドン。冒頭のニューイヤーパーティーのシーンから色光の捉え方が見事で、矛盾した表現になるが、本作には色光が彩るノワールの趣がある。
 

シリーズ化決定 007を追随?

例えば、電気の消えた豪邸の全景を引きで捉えたショットの中で、シックスが、恩人のめいっ子の少女クレアを守るために、侵入者と戦うシーン。シックスが持っている懐中電灯の光の動きと、打撃や銃の音だけで伝える趣向が楽しい。このシーンでレコードプレーヤーから流れるマーク・リンゼイの「シルバーバード」の使い方も気が利いている。歌詞にある「my lady」がクレアで、「Silver bird」がグレイマンであることを、ラストシーンで回収する。
 
シリーズ化の軸は、本作でさらりと言及していた「影の政府」の存在とシックスとの攻防か。スパイシリーズは、007シリーズのジェームズ・ボンド、「ミッション・インポッシブル」シリーズのイーサン・ハント、先のジェイソン・ボーンらがスーパースター。そこに、シエラ・シックスことグレイマンが名を連ねることになるのは間違いないだろう。
 
そういえば、シックスが初対面のクレアから「シックス? 変な名前」と言われたときに、「007は取られてたから」と切り返す。このやりとりからも、グレイマンというキャラクターに対する製作陣の期待が伝わってくる。
 
Netflixで独占配信中。

ライター
ひとしねま

須永貴子

すなが・たかこ ライター。映画やドラマ、TVバラエティーをメインの領域に、インタビューや作品レビューを執筆。仕事以外で好きなものは、食、酒、旅、犬。

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