新幹線車内で手を振るブラッド・ピット

新幹線車内で手を振るブラッド・ピット

2022.9.08

あっぱれブラピの世界水準

毎日新聞のベテラン映画記者が、映画にまつわるあれこれを考えます。

勝田友巳

勝田友巳

「ブレット・トレイン」宣伝のため、8月に弾丸来日したブラッド・ピット。あふれんばかりのサービス精神、大物ぶりを見せつけて、通り過ぎていった。さすがハリウッド、これぞスター。元々それほど熱心なファンではないし、「ブレット・トレイン」も「……?」な映画だったが、あの姿を見たら応援しないわけにはいかない。そんな気にさせるのだ。

コロナ禍で海外映画人の来日キャンペーンがすっかりなくなっていた中で、5月のトム・クルーズに続く大スター登場。映画宣伝のために新幹線を丸々1編成仕立て、共演者と監督、取材させる記者を乗せて東京から京都まで特別ダイヤで走らせた。「時速300㌔のレッドカーペット」というわけだ。

新幹線の中で40人ほどの記者に向かって愛想を振りまき、到着して直行した二条のシネコンで映画のお披露目。上映前、シネコン内に用意されたレッドカーペットを練り歩き、待ち受けたファンの求めに応じて記念撮影にサインにと、「時間です」というスタッフを制して付き合ったうえ、サービスしきれなかったファンにも後から対応するという手厚さだ。

座長のブラピがそんな具合だから、他の出演者も大ノリ。舞台あいさつ開始時間が押して待たされた記者たちも、そのサービスぶりを目の当たりにしては文句よりも感心の方が先に立つ。通常の舞台あいさつで観客が写真など撮ろうものなら誰かが飛んでくるが、「今回は特別に、一般の方の写真撮影も可能です。スマホをご用意ください」。さすがブラピ、あっぱれプロ根性。しかしそう思ったのもここまで。「時間は10秒です」。カウントダウンできっちり打ち切りになったのが、いかにも日本的だった。

ブラピに限らずハリウッドの大スターは、屈託なくおうようで、懐が深い。いや実際にはどうか知らないが、そう思わせる。見られてナンボ、嫌な顔をせずにサービスするのも仕事のうちなのだ。先ごろ訪れた韓国でも、そんな雰囲気が感じられた。

日本でも人気のク・ギョファンの舞台あいさつ。その間中、客席から写真撮り放題。終了後にプレゼントを持って走り寄ったファンたちはさすがに制止されていたものの、ファンの側もク・ギョファン側も織り込み済みのようで、混乱には至らずお開きに。安全第一、時間厳守の日本では、考えられない光景だった。

それぞれに長短はあり、単純な比較はできないと承知している。しかしもっとサービスしたいという俳優だっているのでは。日本はことさら所属事務所の管理が厳しいようだし、取り巻きはそちらの顔色をうかがっている。忖度(そんたく)と事なかれ主義では、ファンサービスでも世界水準から取り残されそうだ。

ブレット・トレイン

殺し屋レディバグ(ブラッド・ピット)は、超高速列車の中でブリーフケースを奪うよう指令を受けた。東京駅で乗車して間もなくブリーフケースを手に入れたものの、品川駅で降りようとしたところで、すご腕の殺し屋ウルフに襲われた。車内には計10人もの殺し屋が乗り合わせ、血みどろのブリーフケース争奪戦が繰り広げられる。伊坂幸太郎の小説「マリアビートル」が原作。
 
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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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