トーベ © 2020 Helsinki-filmi, all rights reserved

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2021.9.30

TOVE トーベ

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

第二次世界大戦の最中に、不思議な生き物たちが登場するムーミントロールの物語を書き始めたトーベ・ヤンソン(アルマ・ポウスティ)。戦後も創作活動に没頭するが、名の知れた彫刻家の父親(ロベルト・エンケル)との関係や、保守的な美術界の空気は彼女にとって心地のいいものではなかった。ある日、トーベは政治家でジャーナリストのアトス・ヴィルタネン(シャンティ・ローニー)と恋に落ちる。既婚者である彼との関係を終わらせたのは、舞台演出家の女性、ヴィヴィカ・バンドラー(クリスタ・コソネン)だった。

日本でも愛され続けるムーミンの生みの親の人生に迫った人間ドラマ。スナフキンのモデルになった人物の描写などはあるものの、制作秘話を期待すると肩透かしを食らうかもしれない。しかし自由な精神と肉体を持ち、仕事と愛に生きたトーベのエネルギーは全編にあふれる。それを象徴するようなダンスシーンにも心が弾んだ。ザイダ・バリルート監督。1時間43分。東京・新宿武蔵野館、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(細)

ここに注目

実際のトーベは86年の天寿を全うしたが、本作は彼女の30代を軸に描いた。芸術家として、一人の人間としての自己を最も切実に模索した時期だったのだろう。単純な成功物語ではなく、型破りなまでに情熱的、そして孤独と闘い、愛を渇望した女性の肖像がここにある。(諭)