「仏教の次に映画が大好き」という、京都・大行寺(だいぎょうじ)住職の英月(えいげつ)さんが、僧侶の視点から新作映画を紹介。悩みを抱えた人間たちへの、お釈迦(しゃか)様のメッセージを読み解きます。
2023.5.23
それぞれが持つ「太鼓の音」 「雄獅少年/ライオン少年」:極楽シネマ:
獅子舞に魅了され、その獅子舞と真摯(しんし)に向き合うことで、未来が切り拓(ひら)かれた中国・広東省の村に住む少年の物語です。日本の獅子舞の源流は、8世紀ごろ中国から伝来した伎楽や舞楽に求められると辞典にありますが、この映画で描かれるのは、中国南方に伝わり、競技として完成された獅子舞です。特徴は踊り、音楽、そして武術が一体となっていること。対する二つの獅子や、大群となった獅子が戦う様は、アニメとはいえ圧巻です。
さて、この物語は、少年チュンが広州市で開かれる獅子舞競技会のチラシを手にするところから始まります。広州市に出稼ぎに行ったまま帰ってこない両親に会うため、そして元気な自分の姿を見せるため、出場を決めたチュン。友人たちを誘ってチームを結成し、昔の獅子舞界のスター・チアンを探し出し、弟子入りを試みます。しかしチアンは、家業の塩漬け魚売りを妻に任せ、飲んだくれの毎日。おまけにチームメンバーは獅子舞経験ゼロ。弱いが故に、そして貧しいが故に周りから見下される彼らは、「いじめられるために生まれてきたわけじゃない!」と奮起し、自分たちの人生と尊厳をかけて競技会を目指します。
しかし思い通りにはいきません。父親が仕事中の事故で村に戻され、チュンが代わりに出稼ぎに行くことに。そんなチュンに向かって、チアンが「太鼓の音を忘れるな」との言葉を贈ります。太鼓の音によって獅子舞が思い出され、故郷も思い出される。世間の価値観に流されても、自分の足元を確認することで、踏ん張れる。それが太鼓の音を思い出すことによって起こされるのです。ふと、僧侶としての私が、「南無阿弥陀仏(あみだぶつ)」ととなえた声によって仏様が思い出されるのに似ているなと思いましたが、私たちそれぞれにとっての「太鼓の音」があるのですね、きっと。
26日から東京・新宿バルト9、大阪・T・ジョイ梅田ほかで公開。