ひとしねま

2022.12.02

チャートの裏側:筋書きに重層性もたせて

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

予告編は面白かった。サスペンスなのか、ミステリーなのか。母と娘の間に起こる、おぞましさが濃厚で興をそそられた。湊かなえ原作とある。ひょっとして、大ヒットした湊原作の「告白」の再来もあるか。「母性」である。最初の5日間の興行収入は2億3000万円だった。

数字は正直だと思った。弾けていない。サスペンス、ミステリーではなかった。タイトルどおりに、母性をめぐる母と娘の確執の話であった。予想されたようなエンタメ性は希薄であり、そのような作品ではない。これが、興行に少し影響が出ている気がした。客層が限定的だ。

「女系家族」という山崎豊子の小説がある。映画化、ドラマ化もされた。大阪の老舗問屋のあるじが亡くなったことから起こる財産相続の話だ。女性たちの世界を軸にした点で、少々強引だが、「母性」は現代版「女系家族」にも見えた。ただ、両者に決定的に違っている部分がある。

「女系家族」が、男たちも描いていることだ。男たちの打算が、女たちの相続争いに一枚嚙(か)んでいる。つまるところ、「母性」には、母性に対する父性がない。ややこしい言い方だが、父性的な話の展開を加味したらどうだったか。筋書きに重層性をもたせるのだ。映画は、多くの観客を視野に入れる。その特質を考えた上の仮説である。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)