「対峙」 © 2020 7 ECCLES STREET LLC.jpg

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2023.2.10

特選掘り出し!:「対峙」 誠実と受容がもたらす光

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

とある教会に、2組の夫婦がやってくる。円卓と4脚の椅子だけの部屋で1時間半、4人とカメラは外に出ず、セリフの応酬だけで緩みなく見せきってしまう。これが初脚本、初監督のフラン・クランツの驚きの会話劇。

やってきたのはリチャード(リード・バーニー)とリンダ(アン・ダウド)の夫婦と、少し若いジェイ(ジェイソン・アイザックス)とゲイル(マーサ・プリンプトン)。人物紹介も状況説明もないまま、4人の会話がぎこちなく始まる。やがて2組は、高校で起きた銃乱射事件の被害者と加害者の両親だと分かる。息子を殺されたジェイとゲイルは「なぜ」を問い、リチャードとリンダは疑問に答えようとする。

4人がよって立つのは、詰問と弁明でなく誠実さと受容の姿勢だ。時に感情的になりつつも、互いの話に耳を傾け、事件を理解しようと試みる。フラッシュバックを一切使わず事件の全容を伝える脚本も秀逸なら、親の心情を繊細に表現した俳優も見事。演劇的な設定も映像の工夫で単調さを逃れている。スリリングな物語に、救済をもたらす対話の可能性を示すのである。1時間51分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(勝)

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