麻希のいる世界  (c)SHIMAFILMS

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2022.1.27

麻希のいる世界

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

高校2年の由希(新谷ゆづみ)は重い持病を抱えているが、海岸で同じ高校に通う麻希(日高麻鈴)に出会う。麻希には男がらみの悪いうわさがあったが、他人を寄せ付けない振る舞いにひかれ、2人は親しくなっていく。ある日、由希は麻希の歌声を聞きバンドを作ろうとする。

キラキラした青春など皆無。救いや希望とはほど遠く、共感さえ寄せ付けない。麻希を慕い何よりも必要とする由希の強じんな意志、周囲に渦巻く凡庸さへの憤りと虚無感が同居する麻希の視線、行動が増していく。生きる力を瞬時に点火させてしまうような2人に、危うさとかすかな羨望(せんぼう)を感じつつ、引きずられるように画面に見入る。物語は2人とバンドを組む祐介(窪塚愛流)を巻き込み暴走へと向かうのだが、予想だにしない展開とその災いさえも受け入れる2人の姿にただただ圧倒される。足音や自転車をこぐなど鋭敏な音、麻希の歌声が2人の生命力と呼応する。塩田明彦監督。1時間29分。29日から東京・ユーロスペース、3月18日から大阪・シネマート心斎橋で。(鈴)

ここに注目

 自分への同情や共感を徹底して拒否し、由希を裏切り続ける麻希と、「生きた証し」を残すために、麻希の才能に身をささげる由希。SM的ですらある関係は理屈や理解を求めない。若い女優2人のまなざしの強さとたたずまいの生硬さが、理不尽な物語に抜群の説得力を与えている。(勝)