「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」を企画したAWAのワリー(右)とアマンダのコーバル夫妻=2023年11月、勝田友巳撮影

「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」を企画したAWAのワリー(右)とアマンダのコーバル夫妻=2023年11月、勝田友巳撮影

2023.12.04

ウェス・アンダーソンすぎる写真で人生大転換 仕掛け人米国人夫妻が語るAWA的世界の魅力

公開映画情報を中心に、映画評、トピックスやキャンペーン、試写会情報などを紹介します。

勝田友巳

勝田友巳

東京・渋谷のヒカリエホールで開かれている「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」は、ウェス・アンダーソン監督の映画に出てきそうな風景を世界中から集めた写真展。2023年4月の東京・天王洲に続き、内容を増強して2度目の日本開催だ。17年にワリーとアマンダのコーバル夫妻が始めたインスタグラム「ACCIDENTALLY WES ANDERSON」(たまたまウェス・アンダーソン=AWA)は、いかにして190万人のフォロワーを獲得し、世界各地で写真展が開かれるにいたったか。折しも「アステロイド・シティ」がDVD化されたばかり。来日した夫妻に聞いてみた。

 
 

アンダーソン映画だけは劇場で見てた

「まさかこんなことになるとはね。信じられない」と、ワリーとアマンダの夫妻。「あまりの出来事に、考えすぎないようにしている」。日本に来るのは2度目という2人、顔を見合わせて陽気に語る。
 
インスタグラムを始めた17年当時、夫妻はニューヨークに住んでいた。夫のワリーはイベントセールス、妻のアマンダはケータリングマネジャーだったという。アートは好きだが、話題作でも配信でいいや、という程度の「フツーの映画ファン」。ただウェス・アンダーソン監督の新作は「必ず劇場に見に行っていた」。
 
「見た目が美しくて楽しくて、その日を明るくしてくれる。でもその下に、おかしくてちょっとダークな物語もある。1回目には映像的な素晴らしさ、2回目以降は何度見ても、毎回多層的な物語の奥深さに気づかされる」とアンダーソン映画評。


写真展の出品作「ダラット駅 ベトナム、ダラット」 John Langfor (@johnlangfordtravelphotos), Dalat Train Station

いつかは行ってみたいウェス的光景集めたら

さて旅行好きの夫妻は「死ぬまでに行きたい場所のリスト」を作ろうと、「アンダーソン的」な風景写真をAWAとして、インスタグラムに投稿。するとみるみるうちにフォロワーが増加し、夫妻の元に〝AWAな写真〟が次々と送られてくるようになった。
 
空き時間に写真を整理しサイトのアップデートをしていたものの、コミュニティーは拡大の一途をたどる。「はじめは仕事の後、1~2時間程度だったのが4時間になり5時間になって。仕事を二つ掛け持ちする感じ」。2年もたったころ、せっかくだから写真集として出版しようと決めたことが、転機となった。
 
19年2月、ワリーは仕事を辞め、1年間、出版準備に専念することを決める。「家賃が払い続けられるようだったら、AWAに専念する。ダメなら別の仕事を探す、とね」。そうこうするうちにコロナ禍に突入するとアマンダも仕事を失って、2人で本に取りかかる。手伝いのスタッフも加わり、1万5000枚の写真から200枚を厳選。20年に写真集「ACCIDENTALLY WES ANDERSON, THE BOOK」(日本では「ウェス・アンダーソンの風景 世界で見つけたノスタルジックでかわいい場所」)として出版すると、ベストセラーに。その頃にはインスタグラムのフォロワーは100万人を超え、夫妻は晴れてAWAを仕事とするようになった。


写真展の出品作「マリーズ・チョコレート アメリカ、オハイオ州、クリーブランド」@Accidentally Wes Anderson, Malley’s Chocolates

シンメトリーとパステルカラー、そしてストーリー

その後もフォロワーは増え続け、23年11月で189万人。今でも世界中からの投稿が毎月2000~3000枚あるという。スタッフは夫妻を含めて5人。「1日12時間以上、休みなし。人生の全部をささげて」日々サイトを更新し続けている。日本を含む世界中から集まったAWA的風景、どれも一目でそれと分かるけれど、千差万別なのが面白い。
 
AWA的風景を定義してもらった。「左右対称の構図と明るい色調、とっぴなデザイン、郷愁を誘う雰囲気。歩いている人がちょうど扉の真ん中にいるとか、一目で分かる要素がある」。しかしそうした見かけだけではAWAと認定しないという。「そこには〝物語〟が必要なんだ」。その土地、場所の背景、あるいは投稿した人たちの裏話。「いくら完璧な写真でも、物語がなければAWAではない」ときっぱり。
 
掲載する写真を決める時には、できるだけ背景を調べ上げるという。だから「ネタが尽きる心配はまったく無用」と断言する。「AWAは絶対になくならない。世界中のあらゆる土地、建物に、シンメトリーと物語は存在するんだから」


写真展の出品作「ウィーンケ島 南極大陸」Marjorie Becker, Chief AWA Photographer(@marjoriebeckerphotography@accidentallywesanderson),WienckeIsland

自分にも撮れるかも とっつきやすさが魅力

見ているうちに、身近にもありそうだ、自分でも撮れそうだと思わせるのも魅力の一つ。「そう、スマホを使おうが高級カメラだろうが、プロでも素人でも撮れる。場所を選ばないし、物語はどこにでもある。誰でも参加できるのがいいところ」。それだけではない。「やってみると自分にもできるんだと気づくし、世界をちょっと違ったレンズで見て、ありきたりの光景に美を発見できる」。ちょっとウェス・アンダーソンの映画にも通じるかも。
 
アンダーソン監督自身も、もちろん公認。「1カ月半に1度くらい、連絡を取っている。今でも最終的な決定権はウェスにあって、彼がイエスと言ってくれないと進まない」。ただ「イエス」の返事がくるまでの時間が短くなっていると感じている。「はじめはどこの馬の骨とも分からないネット住人だったから、警戒するのも当たり前。信頼してくれてると思う」。2冊目の書籍の出版も間近だとか。
 
ところで当初の目的だった、2人の旅行計画はどうなっているんだろう。「リストはどんどん長くなっていて、とても果たせそうにない。存在すら知らなかった場所が、次々と出てくるんだから」。それでも写真展のために韓国や日本を訪れ、南極にも足を踏み入れた。「南極に行くなんて、自分たちの人生に絶対ないと思っていたのに、ラッキーだね。AWAを世界中どこでも見つけられるという証拠になった」。AWAを探す冒険は、まだまだ続きそうだ。
 
写真展は12月28日まで。ウェブサイトはこちら

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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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  • 「マリーズ・チョコレート アメリカ、オハイオ州、クリーブランド」
  • 「ヴィッカース・ヴァイカウント イギリス、ロンドン」
  • 「ホテル・ザッハー オーストリア、ウィーン 」
  • 「望遠鏡 イタリア、モノポリ」
  • 「熱気球 ニュージーランド、北島、ハミルトン」
  • 「フーサヴィーク灯台 アイスランド、フーサヴィーク」
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