「ヒトラーのための虐殺会議」 © 2021 Constantin Television GmbH, ZDF.

「ヒトラーのための虐殺会議」 © 2021 Constantin Television GmbH, ZDF.

2023.1.20

「ヒトラーのための虐殺会議」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

ナチス・ドイツの高官15人が集い、1100万のユダヤ人絶滅政策・大量虐殺について話し合ったバンゼー会議を描く。1942年1月20日、国家保安部長官のハイドリヒは、ナチス親衛隊や各省庁の次官らをある邸宅での会議に招く。議題は「ユダヤ人問題の最終的解決」。わずか90分間の会議で、ユダヤ人の移送や虐殺の方法が決まっていく。

親衛隊中佐、アイヒマンによる議事録を基に製作。ホロコーストを生み出すきっかけになった会議の全貌を端的にまとめている。出席者たちは効率的な移送や虐殺について意見を交わし、自らが管轄する地区のユダヤ人を優先させるよう駆け引きするなど、あくまでビジネスライクな態度。「特別処理」「きわどい方法」といった間接的な言い回しが不快感をあおる。

何よりぞっとするのは、出席者の誰もが「虐殺は正義」と信じて疑わないこと。いつの時代も、正義を振りかざす者に真の正義はないのだと感じた。マッティ・ゲショネック監督。1時間52分。東京・新宿武蔵野館、大阪・なんばパークスシネマほか。(倉)

ここに注目

舞台は会議が開かれた邸宅の中、動き少なく議論するだけで、場面転換もない。それでも見入ってしまうのは、大量殺りくを役所仕事として効率的、完璧に遂行する方策を真剣に論じ合う姿があまりに異様だから。映像化された「凡庸な悪」は、ホラー映画よりよほど恐ろしい。(勝)