「イスラエルとパレスチナが共存できる世界をつくるべきだ」と語る関根健次ユナイテッドピープル代表=福岡県糸島市で2024年4月3日、遠藤孝康撮影

「イスラエルとパレスチナが共存できる世界をつくるべきだ」と語る関根健次ユナイテッドピープル代表=福岡県糸島市で2024年4月3日、遠藤孝康撮影

2024.5.01

「敵の兵士を殺したい」 〝ガザ映画〟連続公開する配給会社代表を決意させたパレスチナ13歳少年の一言

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遠藤孝康

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夜空に上がる砲火。花火玉のようにも見えるが、着弾した建物が地響きとともに崩れ落ちる光景が次に映し出され、そこがリアルな紛争の現場であると思い知らされる。5月以降、東京や岡山で上映が予定されているドキュメンタリー映画「医学生 ガザへ行く」(2021年)のワンシーンだ。

 

〝天井のない監獄〟の日常 「医学生 ガザへ行く」

映画を配給する「ユナイテッドピープル」は、イスラエルとイスラム組織ハマスによる激しい戦闘が始まった23年10月以降、パレスチナ自治区ガザ地区を舞台に撮影されたドキュメンタリー映画を立て続けに送り出してきた。戦闘開始の1週間後には、映画「ガザ 素顔の日常」(19年)の緊急オンライン上映会を開催した。壁で囲われ、人や物資の移動を制限される中で生きるガザの人々を描いた作品で、同社が22年夏に配給。23年秋以降、改めて全国30カ所の映画館で上映された。続けて、24年1月に配給したのが、自由を求めて海でサーフィンに興じる若者たちを追った映画「ガザ・サーフ・クラブ」(16年)。「医学生 ガザへ行く」は3作目だ。

「医学生 ガザへ行く」の主人公、イタリア人医学生リッカルドは救急医療の現場で学びたいとガザを訪れる。出会うのは、フレンドリーで心優しいガザの人たちだ。だが、そこは「天井のない監獄」と呼ばれるエリア。住民は自由にエリアの外へ出ることさえ許されない。電力不足による突然の停電は日常生活をたびたび寸断する。

イスラエルとの境界では抗議行動が展開され、イスラエル兵に狙撃された負傷者が病院に担ぎ込まれる。ハマスが攻撃を仕掛けるとイスラエル側からガザ地区にロケット弾が飛んでくる。安全な場所などない。リッカルドたちは夜間、アパートの中を逃げ惑う。ハマスの壊滅を掲げ、イスラエルが23年10月から大規模攻撃をかけるガザ地区。映画は今や、がれきの山と化してしまったこの地区で19年に撮影された。


「ガザ・サーフ・クラブ」© Niclas Reed, Middleton Little Bridge Pictures

「子供らしい夢を持てる社会を」

「ガザの状況は日に日に深刻さを増しているのに、関心は薄れている。とにかく発信を続け、ガザのことを伝え続けたい」。ユナイテッドピープルの関根健次代表は次々と映画を投入する狙いをこう語る。同社はこれまで、紛争や環境など世界が直面するさまざまな問題、課題をテーマとしたドキュメンタリー映画約70作品を送り出してきた。「映画には人の心を動かし、行動を促す力がある。子供が子供らしい夢を持てる社会を作りたい」

そんな思いの原点には、25年前のガザでの体験がある。1999年、初めてガザを訪れた時のこと、広場で子供たちとサッカーを楽しんだ後、雑談の中で子供たちに将来の夢を尋ねた。すると、13歳の少年がこう答えた。「僕は爆弾の開発者になって、イスラエル軍の兵士を殺したい」


「ガザ 素顔の日常」ⒸCanada Productions Inc., Real Films Ltd.

次元の違う苦しみに心寄せて

少年は4歳の時、おばをイスラエルの兵士に突然、目の前で撃ち殺されたという。悲しみと憤りを拭えぬまま少年は育ち、イスラエルへの報復を誓った。「そんなやり方では、平和は来ない」。そう語りかけたが、少年が考えを改めることはなかった。「憎しみの連鎖が続けば、イスラエル、パレスチナ双方が傷つくことになる」。関根代表は、大勢の民間人を巻き添えにして続く今回の戦闘の行く末を憂う。「親を失い、孤児になった子供たちがどんな大人に育つだろうか。即時停戦すべきだ」

ガザ側の死者は日々増え続け、ガザの保健当局によると、この半年あまりで約3万4000人に上る。イスラエルのネタニヤフ首相は、避難民が集まるガザ地区最南部ラファへの侵攻についても「必ず実行する」としており、事態の収束は見えない。ガザでは食料不足も深刻で、戦闘による犠牲だけでなく、飢餓の危機も迫る。関根代表は「『天井のない監獄』と呼ばれてきたが、今は『底なしの地獄』だ」と表現する。「ガザでは『もう死んだ方がましだ』とさえ思っている人も多いだろう。これまでとは次元の違う苦しみを味わっている。そんな状況に心を寄せてほしい」と話す。


「医学生 ガザへ行く」の上映会後、トークイベントに登壇した関根健次ユナイテッドピープル代表=福岡市西区で2024年4月19日、遠藤孝康撮影

福岡県糸島市拠点 ファスト化に対抗

ユナイテッドピープルは、福岡県糸島市が所在地だ。関根代表が02年に同社を設立し、09年から映画の配給事業を手がけてきた。12年、会社所在地を神奈川県から福岡市に移し、さらに20年には福岡市近郊の糸島市に移した。糸島市は山あり海ありの豊かな自然が残る地域。関根代表は「効率重視でファスト化していく世界に対し、異なる時間軸で、自然とのつながりを大切にしながら生活したい」と話す。

必要に応じて国内外に出張するが、配給する映画の選定や上映先との交渉など普段の仕事において、支障は「全く感じない。むしろ、持続可能な社会を実現するという視点を含めてメリットしかない」と強調する。東京から離れた場所で世界とつながり、良質な映画を探し続ける。

「医学生 ガザへ行く」の公開は以下の通り。
5月16日から 東京都北区・シネマ・チュプキ・タバタ
5月17日から 東京都青梅市・シネマネコ
6月14日から 岡山市・シネマ・クレール

市民による上映会の開催も呼び掛けている。詳細はこちらから。

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ライター
遠藤孝康

遠藤孝康

えんどう・たかやす 毎日新聞記者。1979年京都市生まれ。2002年に毎日新聞社入社。広島支局、大阪社会部、長崎支局、那覇支局などを経て、22年から社会部西部グループ副部長。

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