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2022.3.13
第45回日本アカデミー賞授賞式ルポ 「ウクライナ」「コロナ禍」「3・11」に祈りと願い
第45回日本アカデミー賞授賞式が3月11日、東京都港区のグランドプリンスホテル新高輪で行われた。映画関係者の2度の投票により最優秀賞を決める、日本映画界の1年間の総決算。鈴木隆記者がリポートする。
受賞結果はこちらから。
観客制限緩和で、盛り上がり回復
グランドプリンスホテル新高輪のロビーには、午後3時の開演が近づくにつれて盛装した男女が増えていく。新型コロナウイルスの影響で、授賞式は一昨年無観客、昨年は観客を50%以下に絞って開催したが、今回は70%まで回復した。テレビ中継でも、受賞者や関係者らの後方に一般の映画ファンが時折映ったが、やはり観客が多く入った方が断然いい。みんなでお祝いする雰囲気が盛り上がり、会場の熱気も高まった。
司会は羽鳥慎一と昨年「MOTHER/マザー」で最優秀主演女優賞の長澤まさみ。まずは、優秀賞受賞者の入場だ。受賞者がL字形のレッドカーペットを歩き始めると拍手が広がる。人気俳優の佐藤健や天海祐希らが姿を見せるとより大きな歓声が湧く。記者は会場には入れず別室のモニター画面でその模様を見ているだけだが、華やかな空気は十分に伝わってくる。さあ、開始だ。
日本アカデミー賞は、会員の投票で優秀賞5作・人を選び、その中から最優秀賞を選ぶという方式。発表は、映画作りになくてはならないスタッフから。美術賞は「燃えよ剣」のベテラン原田哲男が最優秀賞を受賞。「まさかの1等賞で光栄です。全ての関係者の皆さんにお礼を言いたい」と短いあいさつ。毎日映画コンクールでも同賞受賞の原田が、幕末の映画の舞台を細心の技で作り上げた。
主演男優賞の西島秀俊
「ドライブ・マイ・カー」8冠で圧勝
続いて撮影、照明、録音、編集、音楽、脚本と一気に7賞を発表。このうち音楽賞をのぞく5賞が、「ドライブ・マイ・カー」(以下「ドライブ」)だ。今回の日本アカデミー賞最大の焦点は、「ドライブ」がいくつ最優秀賞を受賞するか。本家本元の米アカデミー賞で作品賞など4部門にノミネートされた同作、日本アカデミー賞でも作品、監督、脚本、撮影、照明、録音、編集、主演男優と8部門で優秀賞に選ばれていた。ここまで〝パーフェクト〟。
続いて最優秀助演男・女優賞の発表だ。優秀賞の各5人が壇上に上がり、司会とのミニトーク。ここで初めて、作品の映像が流される。テレビ放映を意識して、日本アカデミー賞授賞式は、毎年俳優重視の構成だ。男女俳優の優秀賞20人とのQ&Aは、共演者などにもカメラを向けて時間もたっぷり。やや長めだが、長澤まさみが時に質問をかんだりして愛嬌(あいきょう)を振りまくのが、アクセントになった。
トロフィーを受け取る清原果耶
最優秀賞の俳優が壇上での受賞スピーチを終えて、レッドカーペットを歩く様子が興味深い。助演男優賞の鈴木亮平は高揚感の中で喜びをかみしめるように、周囲の監督や俳優たちに何度も会釈し、生真面目な人柄が感じられた。助演女優賞の清原果耶は20歳の笑みを満面に浮かべて喜びを表した。
受賞スピーチする鈴木亮平
新人俳優賞の後は協会特別賞、会長功労賞、岡田茂賞と続く。会長功労賞には映画字幕翻訳の戸田奈津子、黒澤プロダクションマネージャーの野上照代ら6人。「生きるとはどういうことか(映画に)学ばせてもらった」(戸田)、「1本の映画が1人の人生に影響する」(野上)と、受賞スピーチも先達の言葉には重みがある。話題賞、外国作品賞、アニメーション作品賞と続き、いよいよ主演の男・女優賞の発表だ。プレスルームも熱気を帯びる。
有村架純
最優秀主演男優賞は「ドライブ」の西島秀俊。スピーチ後のレッドカーペットで、緊張感の中にも作品への責任感が感じられた。同女優賞の有村架純は目の輝きが増し、白いドレスがより美しく感じられた。同監督賞と同作品賞も「ドライブ」で、終わってみれば8冠を達成。濱口竜介監督は3回も登壇、「ドライブ」の圧勝だった。
激動する社会と世界に向けた発言多く
ただ、今回の見どころはもう一つあった。3時間余りの授賞式で、受賞者のスピーチに「平和への願い」「穏やかな日常」「暴力と戦争への非難」といった言葉が数多く聞かれたのだ。
今年の授賞式は、世界や日本が直面する国際情勢、社会状況と直面するタイミングだった。ロシアのウクライナ侵攻、出口の見えない新型コロナウイルスによる閉塞(へいそく)感、東日本大震災発生からちょうど11年。映画界も映画人も例外なく、厳しい環境下にあるのだ。コロナ禍での撮影の遅れ、度重なる公開延期を余儀なくされたことに触れる受賞者も多かった。
印象に残ったスピーチを拾ってみよう。
最優秀作品賞など8冠 「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督(右)と主演の西島秀俊
最優秀作品賞で登壇した西島秀俊。「平和が訪れることを祈り、心の絆を取り戻せるよう、この作品が希望の光になることを願う」
最優秀主演女優賞の有村架純。「最後に、世界中が一刻も早く穏やかに過ごせますよう祈っています」
「孤狼の血 LEVEL2」で優秀監督賞の白石和彌監督。「受賞作品は暴力がたくさんある映画だが、あらゆる暴力と戦争がなくなることを祈っています」
「ヤクザと家族 The Family」などで新人俳優賞の磯村勇斗。「偏見や差別のない平和な世界が訪れることを強く願っています」
東日本大震災と生活保護を描いた「護られなかった者たちへ」で優秀助演男優賞の阿部寛。「復興が進んでいないところに対し、こうした作品を作った意義を感じた」
同作で最優秀助演女優賞の清原果耶。「みんなが報われるような世の中になればいいと思いながら演じた」
「騙し絵の牙」で新人俳優賞の宮沢氷魚。「コロナ禍で世界中が暗い毎日を送っていたが、改めて映画の素晴らしさ、希望を与える映画がたくさんあることを再確認できた」
最優秀監督賞のプレゼンター、若松節朗監督。前回「Fukushima50」で最優秀賞監督賞を受賞した。「11年前の今日、福島で原発事故が起こった。終わりが見えない戦いを人々は今もしている。最近は戦争の映像に心を痛めている。未来の子どもたちに平和は世界を残したい」
欧米に比べると日本では、映画人などのエンターテインメント関係者が国際情勢や社会問題に意見を述べることは少なかった。しかし今回の授賞式では、直接国名をあげて非難する発言こそなかったものの、式が進むにつれて社会的視点のコメントが多くなった。映画関係者、特に俳優などに変化が出てきたのかもしれない。