誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。
2022.8.10
刮目あれ! 理不尽に耐え抜く球児の青春! 究極のピラミッド組織〝部活〟を描く「野球部に花束を」
「ばかたれがーーーーーーーー!!!」
この言葉が聞こえた瞬間、私は確信しました。
この映画、面白い。
部活に生きたことがある、そこのあなた。
部活に生きようとしている、そこのあなた。
先輩・監督・顧問という存在に一度でもおびえたことがあるでしょう。
あの理不尽すぎる世界で生き延びたあなたは勇者です。
中学時代、野球部にもまれきった主人公、黒田鉄平は高校入学とともに野球には一切かかわらないことを決意。その証しとして黒田の髪は黒から茶色へ。典型的な高校デビューを果たします。
しかし、気がつけば野球部の見学へ。
帰宅部への固い決意は、野球部の「あの空気」によって見事に崩壊。
言い出せない。口が裂けても言えない。
「野球したくないです」なんて言えるわけがない。
目の前には、監督と先輩たち。
いや、魔王とその子分たちとでも言おうか。
部活に入りたくなかったにもかかわらず、ひょんな言い訳からついつい入部宣言をしてしまい黒田の野球生活が始まります。
先輩は野球部の「鬼」か「憧れ」か?
部活動には3種類の役者が存在します。
絶対的存在の監督、その子分の先輩、そして奴隷である私たち後輩。
この野球部もそんなヒエラルキー色強めの「ごく普通の」部活動です。
部活は〝先輩〟によって大きく左右されるといっても過言ではないほど、脅威的な存在です。この物語でもそんな先輩像が色濃く描かれています。
仮入部期間はあんなにも優しかった先輩が、入部した途端に鬼になるあの現象。そして誰もが感じるであろう、高1と高3の壁。たった2歳しか変わらないのに、どうしてあんなに大人に見えてしまうのでしょう。「おい、1年!」と叫べば大体のことが片づいてしまう……。そんな光景を、皆さんの部活動時代にも一度は見かけていませんか。
しかしそんな先輩も、自分と変わらぬ高校生。雨で練習がオフになれば喜び、愚痴だってこぼします。そして何より、不安や焦りを毎日感じています、実は。
先輩たちの「もう一つの姿」を見ているうちに、不思議と後輩は先輩の後を追いかけたくなるものです。
怒られても、
厳しくても、
先輩の部活道への強い思いを知れば、鬼は憧れの存在に変わります。
後輩って究極のドMですね。
もはや絶対王政!? キーパーソンは監督
そしてラスボス、原田監督。
この人抜きで物語を語ることはできないほどいい味が出ているなと感じました。
なんせ、キャラが濃い!
大きな声にヤクザのような見た目、周りの教職員をも驚かす威圧感。
しかし不思議なことに、すんなり受け入れることができるほどリアルな監督像。
もう、言うこと、なすことすべてめちゃくちゃ。
原田監督の放った「ばかたれがー!」の一言を聞いたとき、私自身の空手道時代の師範を思い出して思わず笑ってしまいました。この言葉は師範の口癖であり、今でもこの言葉を聞くと無意識に背筋が伸びてしまいます。
私がこの物語のキーパーソンを挙げるとするならば、迷わず「原田監督」と答えます。理不尽なように見えてちゃんと一本の筋がある監督の言葉は、見ている私の心までも動かしてしまう、そんな重みのある言葉ばかりでした。
そんな原田監督を見ていると、私の空手の師範もめちゃくちゃな人でしたが、筋の通った人だったな……なんて思い返してみたり。こういうものは、後になって気づくことが多いなと感じます(野球部の部員たちも私と同じ道をたどるのかな、とひそかに想像していました。笑)。
作品の後半では、原田監督の視線の先やささいな行動までも観察してしまっている自分がいました。そのぐらい、監督の存在が大きい作品です。
全国に4000校ある野球部のうち、甲子園に進めるのはたったの49校。
確率で言うと全体の約1%であり、残りの99%は日の目を見ることはありません。
しかしこの物語では、その99%の思いがリアルに描かれています。
兵庫県西宮市にある「甲子園」。
黒田たちも追いかけたあの聖地。
第104回全国高等学校野球選手権大会が始まりました。
作中の野球部員と同じ心持ちの少年少女がこの大舞台に足を運びます。
このタイムリーさ、やばいです。
この時期だから伝わる感動。甲子園を見ながら、この映画を見る。まるで白ご飯に最高級のおかずが用意されたこの感じ。
この夏、目いっぱい味わってください。
何度も言います、この作品はリアルです。
後輩の視点。
先輩の視点。
そして監督の視点が気持ちいいほどはっきりとうかがえる、そんなお話です。
見終わった後のあなたはきっと、地元を歩いている野球部員たちを応援したくなるでしょう。