ドリームプラン  © 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

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2022.3.03

この1本:ドリームプラン 世を照らす強烈な信念

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)。

伝記映画はアカデミー賞好みのジャンルの一つ。この作品はテニスの巨星、ウィリアムズ姉妹の父親、リチャードが主人公だ。映画になるのは偉人か変人だが、リチャードのアクの強さは突出している。いわば、今様米国版「巨人の星」。アカデミー賞では作品、主演男優、助演女優など6賞の候補となっている。

リチャード(ウィル・スミス)は2人の娘、ビーナスとセリーナをテニスのチャンピオンにすると公言し、2人が生まれる前に作った計画書に従って英才教育を施している。独学でテニスを研究し、妻と他の3人の娘も団結協力。近所のテニスコートで毎日練習、有名なコーチの下に押しかけて、タダで面倒を見てくれと頼み込んでは追い返される。リチャードにとって2人が世界を取ることは決まっているので、周囲からの冷笑や侮辱は意に介さない。間違っているのは相手の方なのだ。

いやはや強烈。リチャードはよく言えば信念の人、はた目には傍若無人の暴君だ。子供たちを振り回し、味方ですら用済みになると切り捨てる。一方で、正義感も揺るがない。娘たちに謙虚さをたたき込み、勉強も手を抜かせない。差別に怒り反撃し、暴力から体を張って守ろうとする。横暴さに反感を覚えつつ、言うことはもっともなので否定もできない。しかも星一徹と違って陽性で、姉妹は飛雄馬の悲劇とも無縁だ。結果的にリチャードが正しかったことは、娘の活躍が証明している。

それにしても、多様化とジェンダーレス時代にリチャードの強さと正しさ、古き良き米国の理想を取り戻せというアジテーションかも。自信満々に突き進み、手本となって世を照らす。マッチョな父性よもう一度。成功が巨万の富と直結するところも、これぞ米国なのである。レイナルド・マーカス・グリーン監督。2時間24分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほかで公開中。(勝)

異論あり

有名なスーパースター姉妹のサクセスストーリーを、テニス未経験の父親を主人公にして語る。実に興味をそそられる企画だ。しかし、本編が始まるとリチャードは驚くほど雄弁で、謎の自信に満ちあふれ、時にエゴの塊のように見える。もっと姉妹の視点を取り入れ、風変わりな父親像を深く掘り下げることはできなかったか。家族愛をうたい、信念、努力の素晴らしさをうたい、負け犬が世界を驚かせる物語には、ポジティブなメッセージがぎっしり。型破りなはずの実話が、感動作の定型にすっぽり収まってしまった物足りなさも残る。(諭)

ここに注目

型破りな計画がどんどん実行に移され、姉妹が差別されてきた子供たちの英雄になっていく瞬間には涙があふれる。しかし自身の計画のためにここまで娘たちをコントロールした〝キング・リチャード〟の物語を無邪気に楽しんでいいものかと、自問自答したのも確か。父の過去も描かれているし、妻には責され、コーチが彼を狂人だと言うシーンもある。作り手側がすべてを美談にせずにエンターテインメントとしてバランスを図っていて、結果的にはアメリカンドリームをつかんだ一家のサクセスストーリーに浸ってしまった。(細)