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2023.1.03
インタビュー:三浦大輔監督「そして僕は途方に暮れる」 藤ヶ谷太輔さんの魅力は「良い意味で全くエゴがない。」
「愛の渦」や「娼年」などを手がけた三浦大輔監督による書き下ろしの舞台「そして僕は途方に暮れる」が映画化され1月13日TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開される。
2018年に舞台が公演された後、映画化の企画が始動したのが2020年。コロナ禍だからこそ、人とのつながりを見つめなおす作品を作ろうというのがきっかけだったという。
主人公の菅原裕一は、面倒なことから逃げ続ける。恋人の家を飛び出し、親友や先輩らの家を転々とした後、母親が1人で暮らす北海道へ向かう、という物語だ。
誰もが面倒な局面から逃げ出したいと思ったことがあるのではないか。実際に、全ての局面から逃げ続けてしまったらどうなるのか? 非現実的なようで、好奇心をくすぐる逃避劇エンターテインメントとなっている。
裕一は、自分の行動に対して無責任で身勝手な人物。しかし私は、映画を見ていくにつれて不思議と裕一に共感し、応援すらしていた。この多面的な魅力がある人物像について三浦監督に伺った。
曖昧さを楽しんでもらいたい
三浦監督は自身が手がける全ての作品において、人の曖昧さを表現することを重要視しているという。
「極端な善人や悪人が出てくると、どんな作品を見ていても興味を引かれない」と自身の思いがあるとし、「曖昧さを残したまま楽しんでもらいたい。そこを徹底して貫き通すことを肝に銘じています」と明かした。
裕一の多面性は、善にも悪にも分けられない曖昧さが作り出したものだといえる。これが、観客を物語に引き込む大きな要因のひとつとなっているのだ。
藤ヶ谷太輔さんの俳優としての魅力
©2022映画「そして僕は途方に暮れる」製作委員会
舞台から裕一役の続役となった、藤ヶ谷太輔さんの魅力について三浦監督は「良い意味で全くエゴがない。作品ファーストなところがある」とし、作品に対して真面目に追求する姿勢を評した。
「なにかうまくいかない部分があっても、コミュニケーションを重ねていけば確実に結果を出してくれる」と厚い信頼を寄せる。
藤ヶ谷さんの作品に対する熱心さについて「脚本を読み解く時も、作品に向かう時も、すごく丁寧に質問して、自分で疑問を解決し、理解しようとしてくれる」と、その真摯(しんし)さも信頼の大きな理由のようだ。
「役者さんはどこかでエゴがあるけど、藤ヶ谷くんは良い意味でそれが無くて、こちらの意図を理解しようとして、恥を恐れず分からないことはすべて聞いてくれる。そして、それを確実に体現しようとしてくれる」と語った。
裕一の思いがあふれるあるシーンの撮影において、役が憑依(ひょうい)したような熱量ある演技を1テーク目で藤ヶ谷さんが見せたという。ただ、脚本の流れや本来の狙いとは違うものだったので、その後再度テークを重ねたものの、最終的に1テーク目を使うことに決めたそうだ。
三浦監督は「結果的に役者の演技が凌駕(りょうが)した。作品全体のニュアンスだけではない、映画のダイナミズムを体感した瞬間でした」と撮影を振り返った。
父親との再会
疎遠だった父親との再会が、本作における大きな転機となっている。裕一が、父親と自分の逃れられない血のつながりを実感し、現実に直面するのだ。
三浦監督は、父親役を演じた豊川悦司さんについて、その表現力の高さはもちろん「作品の意図をよく理解して演じてくださった」と振り返る。あるシーンで豊川さんが見せた表情について、「豊川さんのああいう顔を、見たことがなかった」と驚きをにじませた。
映画を見ている観客に向けて
本作には何度か、裕一が振り返るショットが登場する。焦って逃げている裕一が振り返るパターンが多いが、とある場面での振り返った表情が絶妙だ。
三浦監督はそのシーンの撮影時に「この映画を見ている観客に向けての顔を意識してほしい」と藤ヶ谷さんに伝えたという。スクリーンを通して裕一を見ていた観客が、見られる側になる仕掛けだ。裕一の逃避劇を通して、自分ならどうする?と問われているように思えるのではないだろうか。
©2022映画「そして僕は途方に暮れる」製作委員会
本作について「普遍性があって、幅広い人が見ても楽しめるエンターテインメントになるよう、意識した」と三浦監督は言う。
「映画をよく見る人以外にも、楽しんでもらいたい。都心ではなく、地方の方にも。年齢の幅も広く見てもらいたいと思って作りました」と思いを込めた。