出版社が映画化したい!と妄想している原作本を担当者が紹介。近い将来、この作品が映画化されるかも。
皆様ぜひとも映画好きの先買い読書をお楽しみください。
2022.8.30
青春時代のやり残しに秘められた謎「オオルリ流星群」
挑戦と再生の感動作
青春時代の思い出の中に、ずっと気になっている「やり残し」はありませんか?
一歩を踏み出したいけれど、大人になった今はもう、思い切った挑戦はできないとあきらめていませんか? そんな人にぜひ読んでほしい、挑戦と再生の感動作、それが「オオルリ流星群」(伊与原新)です!
45歳の5人組が天文台をつくる
中心となる登場人物は、高校の同級生だった45歳の男女5人(久志、千佳、修、和也、彗子)。その中の一人、天文学者・彗子の帰郷が物語の発端です。彼女の目的は地元・神奈川県秦野市に手作りで天文台を建て、太陽系の最果てにある、見えない星エッジワース・カイパーベルトを観測すること。高校最後の夏、彗子とともに巨大な「オオルリ」のタペストリー作りを成し遂げた久志たちは、彼女に協力して「大人の夏休みの宿題」に挑みます。何億、何十億円という規模が普通の天文の世界。彗子以外は素人にすぎない彼らの挑戦は、果たして成功するのでしょうか? ごくごく普通の人々が織りなすドラマは共感性抜群。さらに実際の研究や天文台図面をモデルに、設定もしっかりと作りこまれており、自分も工具を手に天文台作りに参加しているかのような気分を味わえます。
6人目の仲間の謎
「オオルリ流星群」では、久志たちが天文台作りに挑む現在と、タペストリー作りに打ち込んだ青春の日々という二つの時代の物語が交互に描かれています。映画化されるなら、きっと現在役と過去役でダブルキャスト。誰が誰の過去を演じるのかワクワクします。
輝かしい過去の思い出にとらわれ、「いま」を生きることに行き詰まりを感じている久志たち。そんな物語の雰囲気を一変させるのは、6人目の仲間・恵介に関する謎でした。タペストリーの完成直前に仲間たちの前から姿を消し、高校卒業後に早逝してしまった恵介。天文台作りの過程で、ひょんなことから明らかになった彼の真実に触れたことで、久志たちの「いま」を生きることに対する思いが変わっていきます。そして、ラストシーンで5人を待っていたのは、規模は小さいけれど、計り知れないほど大きな価値のある奇跡だったのです。ノスタルジーだけではない、前向きで希望に満ちた感動が読者を包み込みます。
1970~80年代ポップスの名曲が登場
そして、この物語を彩る要素として忘れてはいけないのが「音楽」。作中では、ブレッド&バター「SUMMER BLUE」、来生たかお「浅い夢」、そして松任谷由実「ジャコビニ彗星の日」といった1970~80年代ポップスの名曲が登場し、物語を盛り上げます。文字だけなのに、まるで楽曲が聴こえてくるかのようなすてきな演出です。
美しく壮大な星の世界の光と、情景を彩る音楽。そして等身大の登場人物たちが紡ぐ、共感度100%でありながら思いがけない意外な展開も盛り込まれた人間ドラマ。これほど映画向きの要素に満ちた「オオルリ流星群」の映画化、自信をもっておすすめします!