アナザーラウンド ©2020 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa Sweden AB, Topkapi Films B.V. & Zentropa Netherlands B.V.

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2021.9.02

アナザーラウンド ほろ酔いの理論と実践

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

「1、2杯引っかけた方が調子がいい」。酒飲みならきっと覚えがあるのでは。それもそのはず、そのあたりが血中アルコール濃度0・05%で、生まれつき不足していた分を補っているのだ。という説を披歴した学者がいるそうで、デンマークのトマス・ヴィンターベア監督(おそらく飲んべえ)がそれを検証した、陰りを帯びた喜劇である。

歴史教師のマーティン(マッツ・ミケルセン)は、このところ気力が減退、生徒と親から大学受験に受からないと授業にダメ出しされ、家では妻のアニカともすれ違い。何をやってもうまくいかない。ある時、教員仲間から聞いた0・05%理論を実践してみると、思わぬ好結果。論文のための実証と称して、友人3人と酒瓶を隠し持って授業に臨むことにした。

下戸の人には「なにをバカなことを」と鼻で笑われそうだが、けっこう説得力がある。リアリズム重視の「ドグマ95」提唱者の一人とあって、酒飲みの描写が迫真。アルコールの影響下で寛容かつ大胆になり、気分高揚、周囲の雰囲気も明るくする。4人とも授業は大受け、家族との歯車も合って、実験は順調に進む。

しかしもちろん、うまくはいかない。酒飲みの第2法則、ほどほどではやめられない。血中濃度を少しずつ上げていき、ほろ酔いから本格的酔っ払いへと変貌する。こうなれば、あとは悲劇が待ち構えている。

「光のほうへ」「偽りなき者」などで人間の暗い業を鋭く突いたヴィンターベア監督。0・05%理論は肯定も否定もしない。酒飲みに肩入れしつつ、歯止めのきかない人間の、悲しくも愚かな宿命を慨嘆する。皮肉な笑いはさすがだが、少々強引なファンタジー調の終幕は、やっぱり酒の影響か? ちなみに0・05%理論に言及した当人は、後で誤解があると警告しているそうだ。1時間57分。東京・新宿武蔵野館、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(勝)

異論あり

長年、酒を提供する仕事をしてきたので、アルコールによって良くも悪くも変化していく人間の姿を冷静な目で見てきた。酒の入った4人の様子は見覚えのありすぎる光景で(撮影中は飲んでいないそうだが)、彼らの実験がどんな結果になるのか、監督がこのテーマにどんな答えを出すのか、人並み以上に関心を持って見守った。「アナザーラウンド(もう一杯)」の声に笑顔で応えてきた責任だ。

物語の展開としては予想通り。だけどラストは期待と少し違った。監督が導いたその結末に、納得はできるものの、モヤモヤも残る。(久)

技あり

ヴィンターベア監督は「ドグマ95」志向。世代が若いシュトゥルラ・ブラント・グロブレン撮影監督が、これを受けて撮る。照明効果は禁止だが、それと分からない光で作った画(え)はできる。マーティンがキッチンでワインを飲む朝。アニカが起きてくる前半は、庭側から流し込んだ主光源。夫婦の弾まない会話は、途中までアニカに高めから1発ライト。対するマーティンの首切れのアップも同じ角度の光。テーブルを入れた外向けの引き画は、食卓に明かりが落ち、窓に天井のモダンなかさが映り込む。「ドグマ95」風に見せるのも腕がいる。(渡)