「オルガの翼」© 2021 POINT PROD - CINÉMA DEFACTO

「オルガの翼」© 2021 POINT PROD - CINÉMA DEFACTO

2022.9.02

時代の目:「オルガの翼」 故郷の惨状、少女の葛藤

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

ロシアのウクライナ侵攻から半年。今回の侵攻と切り離せない2013年に起きた市民運動、ユーロマイダン革命を背景とする物語だ。市民の置かれた状況と強い意志、登場人物のセリフや感情、反応など、現在のウクライナの人たちの惨状と恐ろしいまでに深く重なり合う。

オルガはキーウに住む15歳の体操選手。親ロシアのヤヌコビッチ大統領の汚職や圧政を追及するジャーナリストの母とともに何者かに命を狙われる。オルガは安全のため、父の故郷スイスのナショナルチームに移籍するが、故郷の惨状に胸を痛める。

オルガの視点から描いたことで身近で理解しやすいものになった。若者の不安と悩み傷つく姿、チーム内での葛藤や挫折を織り込みながら、母や離れて見える故郷への揺れ動く思い、さらに体操競技の躍動感もアクセントになって彼女たちの心情が伝わる。実際のデモ参加者がスマホで撮影したマイダン革命の映像は緊張感がほとばしる。オルガ役で実際の元体操選手アナスタシア・ブジャシキナは、くしくも映画と同じスイスに避難しているという。エリ・グラップ監督。1時間30分。東京・ユーロスペース。10月1日から大阪・シネ・ヌーヴォで。(鈴)