BLUE/ブルー  ©2021『BLUE/ブルー』製作委員会

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2021.4.08

この1本;BLUE/ブルー 肉体で語る拳闘の魔力

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)。

昨年「アンダードッグ」が評判になったばかりだし、少し前には「百円の恋」「あゝ、荒野」もあった。ボクシング映画にハズレなしとはいえ、こう続くとどうも……。という気持ちも分かるが、これは新趣向。ボクシングそのものの魅力と魔力を、俳優の肉体を通して語る映画だ。やはりハズレなし、なのだ。

登場するのは、同じジムの3人のボクサーだ。真面目で人柄もいいのに連戦連敗の瓜田(松山ケンイチ)。勝てない故に周囲から軽んじられながらも、穏やかにいなして黙々とトレーニングに励みリングに上がる。瓜田の後輩の小川(東出昌大)は、才能豊かで全日本チャンピオンをうかがうが、脳への障害が表れている。楢崎(柄本時生)はモテるためにジムを訪ね〝やってるふう〟を目指したはずなのに、次第にのめり込んでゆく。

ライバルとの対決とか栄光への渇望とかハングリー精神とか、「ロッキー」的な定番要素はきわめて希薄。瓜田の幼なじみで小川の恋人千佳(木村文乃)を巡る三角関係や、祖母を1人で介護する楢崎の苦労が、淡く物語を彩る程度に挿入される。小川の脳障害が千佳を不安にさせても、小川はリングに執着し、瓜田も止める気はない。

彼らがなぜボクシングに引き込まれるのか、映画ははっきり示そうとしない。ストイックに努力を重ね肉体を追い込み、生身の殴り合いに取りつかれた男たちを、熱気を抑えた控えめな筆致で描写する。しかし、そこにはなにか狂気スレスレの、本能的欲望とでもいったものがあることが浮かび上がってくる。ボクサーを演じた3人の俊敏な動きが、説得力を与えている。

たいていのボクシング映画は見終わって高揚感が残るものだが、この作品には甘苦い哀愁がある。ボクシングをやりたいと思わなくても、その魅力をのぞいてみたくはなるだろう。吉田恵輔監督。1時間47分。東京・新宿バルト9、大阪・梅田ブルク7ほか。(勝)

ここに注目

 このボクシング映画には、輝かしい栄光も負け犬の奇跡のような一発逆転もない。脳に障害を負う恐怖、敗北まみれの屈辱に耐える瓜田や小川の日常は苦行のよう。吉田監督はそれでもボクシングに魅せられ、ありったけの情熱を絞り出す彼らの姿を、粘り強いリアリズムで映し出す。前半と後半では登場人物の見え方が変わってくるキャラクター描写が見事。「女の子に格好よく見られたい」という軽薄な動機でジムの門戸をたたく楢崎のエピソードにも意外性があり、劇的なカタルシスはなくともスリリングな一作となった。(諭)

技あり

 志田貴之撮影監督は全編手持ちカメラで撮った。迫力ある試合やスパーリングを撮る時に、体が自由に使えて、追いやすい。特に小川のタイトルマッチや、右目の上を切る防衛戦のカメラからは、打ち合いの本気度が伝わる。また手持ちの揺れは、情緒的な効果を作り出す。例えば楢崎が、スーパーで100円のようかんを万引きして捕まった祖母を、もらい下げて帰る場面。シルバーカートを押して遠ざかる小柄な老婆と、背の高い孫の後ろ姿に、揺れる広角レンズの画(え)が哀感を増幅させる。「ボクシング愛」を感じる一本になった。(渡)

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