「THE FIRST SLAM DUNK」© 2022 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners

「THE FIRST SLAM DUNK」© 2022 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners

2022.12.22

桜木花道を知らない映画記者が予備知識なく「THE FIRST SLAM DUNK」を見てみたら:映画の推し事

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

勝田友巳

勝田友巳

高校バスケット部の青春スポ根もの――。「THE FIRST SLAM DUNK」を見る前の予備知識はこれだけ。人気があるとは聞いていたが、思い入れは皆無。劇場に足を運んだのは「はやりものは見ておかねば」という、映画記者としての義務感から。期待値ゼロ、いやむしろマイナス。数々の人気アニメの映画版で、ことごとく〝アウェー感〟を味わってきたからだ。今回も覚悟していた。ところが……。
 


 

一見さんに冷たい原作もの

アニメやドラマの映画版、一見さんにはハードルが高い。どれもそれなりに、ある程度は楽しめる。しかしちゃんと理解できているのか、自信が持てない。自分以外、映画館で一緒に見ているほぼ全員が、登場人物の名前や性格、相関関係を知っている。作る方もその前提で、いちいち紹介してくれない。「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」も「劇場版 呪術廻戦0」も、面白く見た。でもちゃんと理解できているのか、心もとないのだ。
 
最近だと「Dr.コトー診療所」。物語のカギを握るたけひろを、劇中の人物たちは(おそらく観客も)、「久しぶり、どうしてたの」と迎えたが、こちらは映画の最後まで「こいつ誰?」。パーティーで会った人物を、周囲が全員知っているのに自分だけが思い出せず愛想笑いをする感じ。居心地悪いし粗相がないかヒヤヒヤする。
 

湘北? 山王工? なにそれ

「SLAM DUNK」はマンガもアニメもほぼ素通りだったから、映画版について行けるはずがない。案の定、映画の導入部、沖縄でバスケットに興じる兄弟を見て不安になり(この兄弟が誰か分からんが、隣の席の人にはおなじみなんだろうか?)、キャラクターを一人一人素描していくタイトル段階で、一度諦めた。やっぱムリ。湘北? 山王工? 主役はどっちのチームですか。
 
やれやれと思う間もなく、いきなりジャンプボールで試合が始まる。選手が激しく動き出すと、おや、と思い直した。バスケットのルールは比較的単純で分かりやすく、攻防の入れ替わりが激しいから展開を見ているだけで飽きない。モーションキャプチャーを使った選手の動きがリアルで、構図もかっこいい。実際にスポーツ観戦しているような気分なのだ。サッカーのW杯だって、選手の名前を知らなくてもゲーム展開を楽しめたでしょう。それと同じ。
 
どうやら山王工が実力では圧倒的に上で、湘北が胸を借りているらしい。しかし湘北が大健闘。選手の技量が高いレベルで拮抗(きっこう)するゲームなら、いやが応にも盛り上がる。伏兵が王者に一泡吹かせるなら、なおさらだ。アニメならではの誇張やスローモーションは、スポーツニュースの好プレー集みたいで楽しいし。
 

意外にも親切だと思った人物紹介

人物紹介も意外と親切だ。最初に出てきた沖縄の少年が背番号7のリョータで、映画の主人公らしい(原作ではサブキャラ、とは後で知った)。試合の前半で、リョータを含む5人の湘北の選手それぞれに見せ場を作り、持ち味を示してくれる。バスケは素人だが抜群のセンスを持った桜木。巨体の赤木がリーダーらしい。3ポイントシュートの達人三井に、天才肌の流川。そしてリョータは技巧派の小兵。前半終了の笛が鳴った時点で、ここまですんなり頭に入った。
 
試合の切れ目に挿入される回想場面でそれぞれのキャラクターの素顔も見せるから、見知らぬ存在が次第に身近になってくる。5人という人数もちょうどいい。サッカーや野球だったら、こうはいかない。リョータはバスケット大好きだが人付き合いが苦手、赤木は煙たがられながら全国一と言い続けてチームを引っ張ってきた大黒柱、桜木はトリックスターでコメディーリリーフ。人物配置のバランスが良く、回想明けで試合が再開するたびに、キャラクターへの理解が深まって思い入れが増していく。
 
二転三転のデッドヒートとなる試合に引き込まれ、はじめは引き気味だったのに、すっかり湘北びいき。ガンバレ湘北。桜木ナイスリバウンド。心憎い作りなのだ。
 

拳握った最後のシュート

とはいえ、分からないことも多かった。リョータ以外の登場人物の背景やバスケットとの関わりは、駆け足でたどるだけで慌ただしい。回想場面でさらに回想を重ねるのは、映画的にぎこちない。それでもリョータのドラマが太い柱として映画を支えているから、とっちらかった感がない。早世した兄への憧れ、自分が生き残ったことへの罪悪感。山王工戦にかけるリョータの意気込みに共振し、胸が熱くなる。最後のシュートには「入れ!」と思わず拳を握ってしまった。
 
たかが1試合に人生の全てが懸かっているような、高校スポーツの真剣さ、一瞬のかけがえのなさが素直に伝わるのである。へなちょこサッカー部員だった自分の高校時代を思い出してしまった。
 

初心者歓迎、迷ったら見てみて

ああ面白かったと見終わって、ふと気付いた。待てよ、この試合の勝敗、原作を読んでいる他のお客さんはみんな知ってたのでは。本気でハラハラしながら見入っていたのは自分だけか! だとしたら、かえって得した気分。スポーツの試合を最後まで見てしまうのは、結果が分からないからじゃないですか。
 
原作になじみがなく、見ようか迷っている人にはとりあえずお勧め。高校バスケット部の青春スポ根ものとして、十分楽しめますよ。で、続編を期待していたら、原作ではこれが最後のエピソードというではないか。それがショック。
 
「THE FIRST SLAM DUNK」は公開中

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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