「ミツバチと私」 © 2023 GARIZA FILMS INICIA FILMS SIRIMIRI FILMS ESPECIES DE ABEJAS AIE

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2024.1.05

「ミツバチと私」 性自認の悩み苦しみを美しい自然が優しく包み込む

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

夏のバカンスでフランスから、家族とともに祖母らが住むスペイン・バスク地方にやってきた、8歳のアイトール(ソフィア・オテロ)。自分の名前や洋服に抵抗感を示すなど男性としての性にもがき、心を閉ざしていた。母アネ(パトリシア・ロペス・アルナイス)はアイトールの苦悩を感じつつもどうしていいか分からない。一方、自身のキャリアの再生に踏み出そうと決意を新たにしていた。

性別に悩み、いら立ちさえ感じる子どもにどう接するかという家族の視点と変化を、無理なく丁寧に描写。母や祖母らの歩んできた人生も取り込み、物語に膨らみが加わった。「生まれ変わったら女の子に」という切実な言葉と、理解を示すアイトールの大叔母との、ミツバチを通しての穏やかな時間を対極に置き、自分探しに苦しむ子どもを際立たせた。バスクの田舎町の陽光や木々の緑、美しい池の風景がそれらを優しく包み込む。

感情の機微を演じたオテロはベルリン国際映画祭で史上最年少(9歳)の最優秀主演俳優賞。エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン監督。2時間8分。東京・新宿武蔵野館、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(鈴)

ここに注目

まばゆい陽光がきらめくバスク地方の自然が美しい。心がふさぎがちだったアイトールは、森を駆け回って川遊びに興じ、養蜂場のハチの生態や信仰という問題に興味を持ち始める。性自認というテーマを子どもの視点で捉え、ささやかなひと夏の冒険映画として紡いだ作り手の感性がみずみずしい。(諭)

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