「52ヘルツのクジラたち」 ©2024「52ヘルツのクジラたち」製作委員会

「52ヘルツのクジラたち」 ©2024「52ヘルツのクジラたち」製作委員会

2024.3.01

時代の目:「52ヘルツのクジラたち」 描き出される救済への希望

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

町田そのこの本屋大賞受賞作を映画化。題名は、他のクジラと鳴き声の周波数が違うため、誰にも声が届かない孤独な個体のことという。

地方の一軒家に越してきた貴瑚(杉咲花)は、母親に虐待されている少年と出会う。声が出ない少年を「52」と呼び、親身に世話をするようになった。貴瑚もかつて、母親から虐待され義父の介護を押しつけられていたが、アン(志尊淳)によって人生をやり直すきっかけを得たのだ。貴瑚が52を守るために奔走する現在と、アンが貴瑚を救った過去を行き来する。

児童虐待やヤングケアラーに加えLGBTQなど性的少数者と、社会問題を物語に詰め込んだ。小さな世界に苦しむ人ばかりが集まる展開は不自然になりそうだが、物語の核にある、貴瑚とアンの互いへの思いが重しとなる。時制を行き来して少しずつ全体像を明かすミステリー調の構成と、感情表現を際立たせる演出で一気に見せ、救済への希望を描き出す。

成島出監督と俳優陣が、社会問題を道具として消費せず、同時に観客にカタルシスをもたらす娯楽映画として成立させようと奮闘している。2時間15分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(勝)

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