「燈火(ネオン)は消えず」 ©A Light Never Goes Out Limited. All Rights Reserved.

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2024.1.12

特選掘り出し!:「燈火(ネオン)は消えず」 夫婦愛が見せる大人の映画

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

香港といえば夜の街に輝くネオンサインを思い浮かべる人も多いだろう。そのネオンが消えゆく中で、人の喪失感と失われゆく香港独自の姿を重ねた逸品だ。
 
腕利きのガラス製ネオン職人だったビル(サイモン・ヤム)が亡くなった。妻メイヒョン(シルビア・チャン)は、彼がやり残した最後のネオンを完成させようと決意。夫の工房に行くと、そこには見知らぬ青年の姿があった。

香港では2010年の建築法等改正以来、20年までに9割のネオンが消えたという。メイヒョンや海外移住を決めた一人娘、夫の弟子の青年は深い孤独の中にいる。一方、回想で挿入される過去の映像には、温かみあるネオンが映し出される。記録映像や写真、コンピューターグラフィックス(CG)で再現し、あるいは現存する数少ないネオン職人が映画のために作り出した。明かりのきらびやかさは圧倒的だ。それは希望と言い換えてもいい。

物語の根幹をなすのは中高年の夫婦愛である。夫の死によってあふれ出す感情を、メイヒョンがユーモアを交えて吐露する姿が胸を打つ。大人の映画の趣がある。アナスタシア・ツァン監督。1時間43分。東京・Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(鈴)

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