毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2025.1.31
「Brother ブラザー 富都(プドゥ)のふたり」 スラム街に育った兄弟の過酷な運命
マレーシア・クアラルンプールの富都(プドゥ)地区にあるスラム街。そこには、さまざまなバックボーンを持ち、貧しい暮らしを余儀なくされている者たちが生きている。その街で、ろうあのアバン(ウー・カンレン)と、アディ(ジャック・タン)は身分証明書を与えられないまま、兄弟として身を寄せ合って暮らしてきた。ボランティアの尽力によってアディの身分証明書取得の可能性が見えてきたが、ある出来事がふたりの未来を閉ざしていく。
日雇いで堅実に働きながら常に弟に「善良であれ」と説く兄と、裏社会とつながる無鉄砲な弟。社会の片隅で生きる正反対の兄弟が、汗と涙にまみれながら袋小路に追い込まれていく様が、湿度を感じさせる映像で描かれている。台湾の人気俳優であるカンレンが、まさに声にならない叫びを伝えるシーンに胸を打たれ、幼い頃から兄弟をつないできたゆで卵のシーンの余韻がいつまでも残る。プロデューサーとして活躍してきたジン・オングの監督デビュー作。1時間55分。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪・テアトル梅田ほか全国で順次公開。(細)
異論あり
身分証明書を持たない2人もトランスジェンダーのマニーも陰の存在で、マレーシア社会の底辺にいる人々の苦悩を描いた。力強い映像と演技が画面を支え、見応え十分の力作。とはいえ、兄弟の運命には救いがなく、少々息苦しい。過酷な現実にカタルシスを期待してはいけない。(勝)