毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.8.30
「ACIDE/アシッド」 スーパーヒーロー不在の逃げ場のない恐怖
南米に壊滅的な被害をもたらした酸性雨の雲が北上し、異常な猛暑に見舞われたフランスに到達。北部の地方都市に住む中年男性ミシャル(ギヨーム・カネ)は、元妻エリーズ(レティシア・ドッシュ)、10代の娘セルマ(ペイシェンス・ミュンヘンバッハ)と合流し、酸性雨の脅威から逃げまどうことに。
近年のパニック映画のジャンルでは、気候変動問題や環境汚染を背景にした自然災害ものが目につくが、本作もその流れをくむ一本。あらゆるものを焼き尽くすように溶かす超高濃度の酸性雨は、水たまりとなって行く手をさえぎり、急場しのぎの避難先の建物さえも浸食する。そんな逃げ場のない恐怖に直面した親子3人の人間模様も悲壮感たっぷり。私生活に問題を抱え、父親としての無力さをさらけ出す主人公ミシャルの痛々しいキャラクターは、見ているこちらまで居たたまれない気分になるほどだ。ハリウッド映画のような派手なスペクタクルは控えめだが、いろんな意味でリアルなサバイバルドラマである。ジュスト・フィリッポ監督。1時間40分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(諭)
ここに注目
猛暑やたび重なる線状降水帯、竜巻の発生、大型台風の増加など自然災害に直面し、ディザスター映画をシンプルに楽しめる時代ではなくなった。しかも、酸性雨となると逃れるすべなし。家族の関係性に時代感をしみこませ、スーパーヒーロー不在の作劇も納得。音響や音楽もゾクゾク感たっぷり。(鈴)